第77話
「……それは……」
それは正直、私としてもとても問題視しているものだ。
皇帝の寵愛がある私を自分の陣営に引き入れればより強固なものになると思っている派閥の人間や妃と、そうではなく権力争いや後宮での地位争いから遠ざかりたい妃で私への対応は異なる。
そうなるとどうしたって不公平がそこに生まれる。
だから私は、妃たちから遠ざけられているのだ。
だが普通に考えてそれっておかしい。
五歳までは確かに私は慣例に従って部屋の中で育てられたが、公の場にも出席するようになったのだから妃たちと交流……というか、妃たちに皇女としての振る舞いを本来ならば学ばなければならない。
だってそれが慣例だから。
なのに父様も兄様たちもそれをよしとしなかったものだから、それがそのまま今に至るんだけど……。
(なんだろう、夫と妻たちの関係が上手くいってない、あるいは母親と息子の関係がちょっとアレなんだって話をするのもいけないよなあ)
私は瞬間的にそう判断してにっこりと微笑んだ。
私の笑みを見て、サルトス様も笑みを深める。
「ふふふ、秘密ですわ!」
「わあ、秘密ですか。じゃあその秘密を打ち明けてもらえるくらい仲良くなれるよう頑張らないと」
「サルトス様が綺麗なお花を咲かせてくださるまでの間にきっとそうなっていると思います」
どうだ! 満点の答えだろう!!
淑女らしく、かつ皇女としてどことなく上から目線。
パル兄様から『お前はぼやっとしてるから皇女らしくちっとは偉そうにしとけ』って言われがちなのよね……ってぼやっとはしていない!
カルカラ兄様からはしっかり者だって褒めていただいているもの!!
「……そうですね。綺麗な花を咲かせて、花束にいたしましょう」
「えっ、花束にしないでも見せていただけるだけで良いですよ? なんだったら、成長過程を拝見させていただけたら嬉しいですが」
そうだよ、せいぜい学校の課題でやったアサガオとかその程度しか私は植物を育てるのに成功していないので、綺麗な花が咲く過程を見られるならそっちのほうがいい。
それにわざわざ切り花にしなくても、同じ城内で暮しているのだから地面から生えている方が長持ちもするだろうし種もできるだろうし、そっちの方がいいはずだ。
「えっ」
だけどサルトス様はとてもびっくりしたお顔をしていた。
ただそれは少しだけで、すぐに変わらないあの優しい笑顔を浮かべていたけど……。
私は何か対応を間違えてしまったのだろうか?
ちょっとばかり不安に思う私だったが――その心配は杞憂だった。
何故だかわからないけど、あの日を境にサルトス様がちょくちょく贈り物やお手紙をくれて、その上週一回ではなくもっと会いたいと打診してきたのだ。
「……えええ? どういうこと……?」
「ぼくらのヴィルジニアがめちゃくちゃ可愛いって気づいたんじゃないの。まあ簡単にはやらないけど」
「シアニル兄上、そこはヴィルジニアに選択権があるんですから俺たちがあまり口出ししては」
「じゃあカルカラはヴィルジニアが誰を選んでもこの子が選んだならって全部肯定するの? そこに嘘がないか、裏に誰がいるのか把握もせずに?」
「そ、それは……」
「あああ兄様たち止めて止めて。シアニル兄様はカルカラ兄様をからかわないの!」
「はぁい」
まあ、毎日私も兄たちの誰かとお茶会をしているからこうして話を聞いてもらえるけど。
でもサルトス様が私のことを気にする理由なんてあったかなあ……。
「そういえばヴィルジニア」
「なあに、カルカラ兄様」
「……この間、第三妃様がオルクス兄上にお前と会いたいと頼んでいるのを見かけたんだ。何か言ってくるかもしれないから、気をつけてくれ」
そっと声を潜めたカルカラ兄様に、私はぎゅっと胸元で拳を握る。
だけど、怖くてじゃない。
(そうか、きたか)
そのうち口出ししてくるだろうなとは思ってたんだよ!
いいじゃないの、私の幸せな未来のためにも、私の結婚は私が決めてみせるんだから!!
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