第55話

 教会とその平屋の建物は、そこそこしっかりと作られた廊下で繋がれていた。

 一歩足を踏み入れると病院と同じような、消毒液の匂いがした。


「比較的軽傷、あるいは軽症状の方は手前側の部屋を、重症であったり今後もお世話が必要そうな方は奥まった部屋になっております」


「万が一火災などにはどう対応しているんだ?」


「この教会では水の魔法を得手とするシスターを常時置くように心がけております。この土地では干ばつはありませんが、逆に氾濫が多いので……そちらでもお手伝いできるものですから」


「ああ、なるほどな」


「ほへえ」


 なるほど、水の魔法を使って水を利用するのか!

 そしてこの建物に関しては火災に対して水魔法で対処すると。

 すごいな!


 感心しつつシスター・ルーレに案内してもらって軽傷の人たちに癒やしの魔法を使いつつお話をすると、みんないい人たちが多かった。

 中には他国から難民としてやってきたはいいけれど、怪我で仕事を失い住むところもなくなってしまったとかそういう……なんか世知辛い話を聞いてしまった。


「地元でない以上、そういう点では難しいからなあ。ヴェルジエット兄上が頭を悩ませている課題だ」


「難民って、どこから来るの?」


「そうだなあ。どこでも内乱やお家騒動で巻き込まれる人間がいるからな」


 ポンポンと頭を撫でられたが誤魔化された気しかしないな。

 五歳児に聞かせる話じゃないってことか。


 このお気遣い紳士め!!


「……あれ?」


「どうした、ヴィルジニア。そっから先はだめだぞ、さっきシスター・ルーレが言っていただろう」


 そう、シスター・ルーレからは床に青いラインが引いてある先が重傷、重病者の休む場所だから行ってはいけないと言われている。

 それはおそらく私のような子供には目に余る悲惨さであること、それから彼らがすさんだ気持ちでいる可能性も含めてなんだと思ったから私も理解をしていたつもりだ。

 というかそういう説明をこっそりパル兄様がしてくれた。

 ありがとう兄様、私ももっと察しの良い幼女になるよ……!!


 だけど、そんな入ってはいけない区画の少しだけ奥まった場所。

 そこにある光を、私の目はしっかりと捉えたのだ。


「兄様」


「……どうした、ヴィルジニア」


「ユベールと同じ色の魔力が見える」


「何?」


「間違いないよ、ユベールのキラキラしたのに、そっくり」


「……くそ、グノーシス。万が一の場合は片手でも戦えるか」


「勿論です、パル=メラ殿下」


「わあ」


 グノーシスが私のことを片手抱っこしてくれる。

 パル兄様よりも視線が高くなったことに驚いていると、兄様はその場で振り返って患者と話しているシスター・ルーレを呼んだ。


「すまんが、探している相手がいる可能性が出てきた。入らせてもらう」


「え、ええ!? で、殿下お待ちください、それは……」


「ここで起きる出来事はこの第三皇子、パル=メラが責任を取る。シスター・ルーレ、ついてこい」


 凜とした態度をとる兄様は、身内の贔屓目を抜いたとしてもかっこいい。

 思わずグノーシスに抱っこされながら拍手してしまいそうになった。


「兄様、信じてくれるの?」


「妹の言葉一つくらい信じてやれねえで兄貴面できないだろうが」


 ああーうちのお兄ちゃんがこんなにもお兄ちゃんだよ!!

 思わずじーんと感激してしまった。


「私、パル兄様の妹で幸せ……」


「おう、その台詞は帰ったら他のやつらに聞かせてやってくれ」


 にやりと笑う姿は相変わらず悪人顔だったけどね! 残念!!



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【お知らせ】

こちらで現在連載中の「末っ子皇女」ですが、この度ありがたいことに書籍化が決定いたしました。

レーベルその他についてはまた後日わかり次第お知らせいたします。


それに伴い、もう数日だけ連日更新をしたのち連載の頻度を落とすことになります。

詳細については近況ノートに書かせていただきますのでよろしくお願いいたします。

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