第46話
私が目覚めた翌日、シエルも目を覚ました。
でもまだ会いに行ってはいけないってデリアに言われた。
なんでも混乱しているのか、誰も寄せ付けなくて凶暴になっているから……らしいんだけど……。
フクロウの状態で私に懐いていたから、私相手なら平気なのでは? という意見もあったけれど、やはり身元の知れない少年相手に皇女が万が一でも怪我を負うようなことになっては取り返しがつかないということで、今は少し距離を置きながら様子を見ているらしい。
同様の理由で、兄様たちもシエルには会えないみたいだ。
といっても兄様たちとシエルの距離は絶妙に離れていたから、それはそれで会話が成り立つのかって話になるんだけど……。
「ねーえ、デリア。まだだめえ?」
「まだだめ、だと思います……医師からは連絡を受けていなくて」
「そっかあ……」
デリアを困らせたいわけじゃないけど、ついつい日に何度も確認してしまうくらいシエルが心配だ。
しょんぼりしていると、カルカラ兄様とシアニル兄様が遊びに来てくれた。
「シエルに会いたいんだろう? 父上から許可をもぎ取ってきたよ」
「ほんと!?」
「うん。しょんぼりヴィルジニアも可愛いけど、ニコニコしてた方が可愛いから。オヤツも最近食べてないんだって?」
「うう……だって……」
「このふくふくほっぺが減っちゃったら悲しいよ」
シアニル兄様本当にほっぺつつくの大好きね?
それはそれで乙女心が複雑なんですけど!?
でもとにかくシエルに会えるということに私は嬉しくってたまらない。
思わずカルカラ兄様に抱きついていた。
「兄様ありがとう!」
「あれ、ぼくには?」
「シアニル兄様も!」
「ふふ、うん」
抱きついている私をそのまま抱き上げたシアニル兄様はご機嫌だ。
カルカラ兄様はそんなシアニル兄様を見て苦笑しているけど。
「暴れて襲いかかってくるなら、俺が押さえ込む。魔力の暴走に対しては対策としてアル兄上が魔道具を装着させたって言ってたから、そこまでじゃないと思う」
「うん」
「ヴィルジニアは、シアニル兄上から離れてはいけないよ」
「はい!」
ちなみにこの話をしに行った時オルクス兄様もいて、来たがってたんだって。
なんでかは知らない。
ウェールス様が興味を示していたって話もあったから、そのせいだろうか?
私たちは私の部屋からそう遠くない場所にある、衛兵が立つ場所に歩を進める。
それはなんだか軟禁しているみたいでちょっぴり不満を感じたけれど、魔力の暴走や恐慌状態になったシエルがいるのだから当然といえば当然なんだろうか。
それでも十歳の男の子なのに、なんて考える私はきっと危機感が他の人に比べて育っていないんだろう。
皇女として守られていることと、前世の記憶がそうさせているんだと思う。
(違う世界、違う家族。受け入れているのに、引きずられちゃうのはどうして?)
少しばかりため息が出てしまいそうだけど、これはおいおい直していくしかない。
ただでさえ幼女らしからぬ言動だと自覚はしているので、精神と肉体のバランスがとれる年齢になった時までには修正が必要になるはずだ。
「開けるよ」
「うん」
ノックに返事はない。
室内に人がいるとまたパニックを起こすかもしれないということで窓を厳重に封印した状態で、必要以上に物を置いていない殺風景な状態だ。
そこに、シエルはいた。
ぽつんと、ベッドに座って。
その様子があまりにも頼りなくて。
大きな絆創膏を頬に貼っているのは、目覚めて暴れたせいなのだろうか。
「しえる」
思わず名前を呼んでいた。
自分でも驚くほど小さいその声は、それでも彼に届いていたらしい。
ハッとした様子で顔を上げた少年は、どこまでも綺麗な顔立ちをしているではないか。
(うっ、またもや美形……!)
しかも兄様たちに負けず劣らずとは相当な美形。
でも私にはわかる。間違いなく、シエルだ。
「あ、りあ、のっと」
私の名前が呼ばれた。
シアニル兄様の顔を見る。
兄様は少し考えてから、私を下ろしてくれた。
「兄上」
「大丈夫だよ」
どっからその自信が来るのかわからない。
でもシアニル兄様は、私の背を押してくれた。優しく、行っておいでと。
「シエル!」
「アリアノット、アリアノット、ごめん、俺、ごめん。怪我は? 苦しくない? 俺、俺……」
「シエルの方こそ熱は? もう平気? ほっぺたは?」
「俺は平気……怪我なんて慣れてる。でも、ごめん、俺、俺……」
シエルはたくさん泣いていた。
青い目から、たくさん綺麗な雫が流れている姿に私は彼がもう大丈夫なのだと安心したら、思わず一緒になって泣いてしまった。
衛兵たちがどうしたことだと慌てて室内に踏み込もうとするのをカルカラ兄様が止めてくれて、シアニル兄様は私たちを毛布で包んで一緒くたにして抱きしめてくれた。
わんわん泣いた。
なんでか知らないけど、たくさん涙が出た。
どこにこんな水分あったんだろうってくらい、泣いて、泣いて、泣いて。
ようやく涙が止まった頃には、私たちの目は真っ赤になっていて、それがおかしくて顔を見合わせて笑い合ったのだった。
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