第42話

 シアニル兄様は果物を私たちに食べさせたら満足したのか、今度はちゃんとドアから出ていった。

 大変おいしゅうございましたがうちの兄ったら自由人すぎないかな? 大丈夫?

 将来的には貴族位を賜って生活することになるんだけど、シアニル兄様は当主やれんのかな……しっかり者のお嫁さんが来てくれるといいなあ。


 さて、そんなことを考えながら私はシエルを見る。

 あちこちに果汁が飛んでべとつくのか、羽づくろいが入念だ。


「デリア、濡れタオル持って来て」


「かしこまりました」


 私の声にデリアがささっと準備をしてくれた。

 魔法を使っているからなんだけど……デリアも私と同じで魔力は強くないけど、火と水の二つ使えるから便利なんだって。

 侍女としての基礎教養は貴族令嬢だから勿論あるし、それに加えて仕事に役立つ能力があったから城勤めができたんだってさ……。

 

 いいなあ……やっぱ能力に見合ったスキルは生きて行くには必要だよね……。

 私の場合はゲーム的に言うなら【回復(小)】なわけでしょ?

 何をしろと……!!


 まあそれはともかく。


「はいシエル、拭いたげる。ここ?」


「ほーう」


「シアニル兄様がごめんねえ」


「ほーぅ……」


 あちこち拭ってあげるとシエルは目を細めた。

 どうやら満足してくれたようだ。


「ねえシエル。シエルは聞きたくないんだろうけど、やっぱり魔国の人たちの話を聞いてほしいの」


「……」


「特徴と目的、それを聞いた上で見かけたらこうして私の部屋に閉じこもるのもいいし、安心もできるかもしれない。私はシエルがなんで怖がってるのかとか、わかんないけど……」


 何も知らないで怯えるのは、全てが恐怖の対象になってしまうのではないかと思うのだ。

 クラリス様とウェールス様がいい人かどうかまでは、わからない。

 ただあの人たちは家族を探しに来ている、それは事実だ。


 そして探している人のことを心配しているのも、多分本当だと思う。

 生死の確認が取れるだけでもいいって言ってたけど……元気でいてくれたらと願っているんだと思うんだ。


 ただまああの後教えてもらった話だと十年くらい前ってことだからね、望みは薄いんじゃないかとか……帝国の奴隷なら、ある程度の保証はされているから生きてはいるんじゃないかとか……もう開放されてよその国に行ったんじゃないかとか。


 とにかくいろいろな可能性が考えられるから、全てを確認するとなると膨大な時間が必要になるんじゃなかろうか。

 だからこそ、帝国の力を借りたいって言ってきたんだろうけどね!


「……ほーう……」


 シエルは少しだけ躊躇った素振りを見せたけど、覚悟を決めたのか頷いてくれた。

 鳥の姿だから頷くっていうかお辞儀してもらったみたいな雰囲気だけど、多分頷いてくれたんだと思う。


 これでもシエルと意思疎通してるからね! 我々仲良し!


「あのね、シエル。魔国から来たのは王女様とその夫で宰相補佐って立場の人と、そのお着きの人たちなの」


 クラリス様は美人で魔力が強くて、多分火か雷の系統だと思う。

 いつ見てもあの人の周りでは魔力がパチパチしてるから。

 ウェールス様の方は……よくわかんない。多分コントロールがすごい上手いんだと思う。


「この二人は見ただけですぐわかるから」


「ほー」


「……お茶のお誘いがあるってことは、近くに来るだろうから遠目に見といて?」


「ほっほう!」


「それでね、二人の目的なんだけど、人捜しなんだって」


 私の言葉にシエルがびくりと体を揺らす。

 その目はあちこちを見るように忙しなく動いているではないか。


「シエル? 大丈夫だよ、あの二人が探しているのは女の人で……」


 バサッ、バサッと忙しなく目を動かすだけでなく羽を広げたり閉じたりし始めたシエルに、私はただ目を丸くするしかできない。

 ただ、シエルがとにかく私の言葉に何か動揺しているということだけは、確かだった。

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