第2話

 兄妹。それは私にとって、憧れであった。


 前世での私には姉が一人いた。そりゃもう美人だった。

 四つ上の姉を両親は溺愛し、姉に尽くしまくっていた。

 姉と同じくらい美人が生まれてくれたら大事にしてやったのにと言われた時には、感情が無になったものだ。


 基本的に姉と私は、両親によって接触を禁じられていた。

 姉は望んだ物がなんでも手に入り、両親の愛を一身に受けていた。

 でもそれはそれで、歪んでいたのだと途中から、気づいた。


 姉は時折大量に何かを両親に買わせては『要らなくなったからゴミをやる』という形で私に譲ってくれた。

 ただそれが頻繁だと両親も気づいてしまうからだろう、頻度は少なかったけれど。


 時折、気遣うような視線をくれる姉のことを、私は嫌いになれなかった。

 

(両親があんなじゃなかったら、私は姉と仲の良い姉妹になれたのだろうか?)


 答えはわからない。

 とりあえず、私が家を出る時には姉が気づいて視線を向けつつ、両親の注目を集めてくれていたからコッソリ抜け出ることができたのは事実だ。


 今思えばどうしようもなかった。私たちは私たちなりに、思うところもあった。

 でも抗う術を持っていなかった中で、私はお姉ちゃんと仲良くしたかった。

 その思いは今も胸の中にある。


(だから今度こそ)


 今度こそ、私は兄たちと向き合っていこう。

 ……どうにも、父が私を溺愛し、息子たちを放任しているせいで好かれている気がこれっぽっちもないわけだが!


(確か一番上から二十五才、二十才、十八才が二人、十七才、十六才だっけ? ……見事な迄にすごく年上ばっかり)


 そこまでして娘がほしかったのか、父よ!

 まあ私は亡き母に似ているとのことで、それが溺愛の理由の一端なんだろうなあ。


「アリアノット姫様、いかがなさいました?」


「デリア。あのね、兄様に会ってみたい、な!」


 滑舌も悪いしあまり難しい言葉を使うことも、長文で話すことも三才児ならしないだろう。

 こちらのメンタルは削られるが、それでも不審がられるよりずっとマシである。


「どちらの兄君に……でしょうか」


 デリアが困惑げにそう私に問いかける。

 どうやら会いに行くこと自体は止められていないようだ。


(しめしめ)


 とはいえ、世の中には〝幼子だから無条件で愛されるなんてことはない〟ということを前世で学んでいるので、端っから大事にされると思ってはいけない。

 いくら今世が美幼女で皇帝の後ろ盾があるとはいえ、むしろそれで嫌われている可能性だってあるだろう。


 かつて、前世の私が姉の親切に気づかなかった時に彼女を憎んでいたことを考えれば、親の愛を一身に受ける私を疎ましく想う兄が一人くらいいたっておかしくないと思うのだ。

 大半が無関心だと思うけどな!


(でもどうしたものかな)


 最年長の一番上の兄は大人としての良識を持ち合わせていれば、決して無下にはしないだろう。

 ただ長男は王太子だって話で、仕事をしているようだし……その邪魔をするのは前世社会人だった身としては憚られる。

 じゃあ手っ取り早く六男か。でも十六才と言えば反抗期じゃないかな?

 反抗期だと親の好きなものイコールで私、つまり嫌い! ってならないかな?


「……他のかあさまにも、会ってみたい」


 うん、それなら将を射んと欲すればまず馬を射よと言うではないか。

 会ってくれる親切な他のお妃様経由でそのご子息と仲良くなれたりしないだろうか!?


 自分で言うのもなんだが、可愛らしい薄幸の美少女ですぞ!!


「それは……」


 デリアが困ったような顔をする。

 あ、これだめな感じか。


 思わずスンとしてしまった。

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