七つの些細な嫌なこと

神凪柑奈

些細なことで

「いって……」


 起床、左足の小指をぶつけた。朝っぱらから気分が悪い。

 無駄に痛くなった足のことはひとまず忘れて朝の準備をしようとして、階段で滑った。六段だけ、十分痛い。

 足が朝からボロボロにされた。結構つらい。でも、そうも言ってられないので朝食を作ろう。たまごサンドでも作ろうと思ってパンをスライスする。よかった、手は切らなかった。

 なんて安心していたら卵を落とした。なんなんだ今日は。

 床に飛び散った卵を拭き取って、もう一つ卵を準備する。これ以上何も起こらないことを願いながら、卵をかき混ぜる。

 ようやく朝食ができた頃には、手にまた傷が増えていた。うっかりフライパンに触れてしまったのだ。もうなんとも思わなくなってきた。


「あっ……」


 しまった。そんなこんなで時間が過ぎてしまっている。完全に自業自得だ。行儀は悪いが、たまごサンドを食べながら制服に着替える。


「いって!」


 タンスの角。また小指をぶつけた。しかも同じ左足。よく見ると腫れ上がっている。

 遅刻するわけにはいかないので適当に湿布でも貼っておこうと思って絆創膏やら塗り薬やらを入れている救急箱を漁る。が、そこにあるはずの湿布がない。そういえば昨日父が最後の一枚を使っていたっけ。


「はぁ……」


 仕方ない。着替えてその他の準備を済ませて家を出る。靴を履くとより小指が痛い。


「よーっす。おはよ」

「……おはよう」


 ああ、本当についてない。今までの六つがなんでもないと思うくらいの、七つ目の嫌なこと。一番会いたくないこいつは、今日も何食わぬ顔で俺の前に現れた。


「どしたー? 朝から疲れた顔してんねー」

「それが先輩に対する口の利き方か」


 生意気な口を利きやがって。お前が誰の前でもそんなだから、俺は一つ下の子達に随分舐められている。

 それでも引き離せない。もしかしたら、俺はこいつと出会ったことそのものが一番の不運だったのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

七つの些細な嫌なこと 神凪柑奈 @Hohoemi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説