ファントム そして神々は嘲笑う

くまきち

神は嘲笑い、そして傍観する

「「先生、脳科学研究はどこまで進歩するのでしょうか!」」

「「青山先生、一言ください!」」

「「青山先生、人権団体から電脳化技術は悪魔の研究だといわれていますがどうお考えなのでしょうか‼」」

「………私から言えることはありません、ですが近いうちに正式な発表ができるでしょう」

「「先生、もう少し詳しく!先生‼」」

「「先生‼青山先生‼」」

「「我々、人類にはまで早いともいわれていますがどうお考えですか‼」


相変わらずうるさい連中だ、注目が浴びそうな話題に真偽を問わず飛びつき民衆の不安を異常に煽る。

そのおかげで随分と痛い目にあってきたが最近はより一層激しくなってきている、移動は目立たないようにしなければな。

そんなことを考えながら記者達をことを頭から振り払い研究室へと続く廊下を進む。

もうすぐ、もうすぐ完成だ。

ここで邪魔されるわけにはいかない、何としてもこの研究の真の目的を知られるわけにはいかない。

……誰にも気が付かれるわけにはいかないんだ。


「先生は記者を撒くのがお上手ですね、私も見失う所でしたよ」


暗い廊下の先からベレー帽を深く被った記者が歩いてくる。


「………記者はこれだから嫌いなんだ、君たちにはモラルの欠片もないのかね?」

「先生の研究がそれほど注目を浴びているということですよ」

「……ふん、民衆の注目を浴びたいだけだろ」

「そう言わずに、そのおかげで十分な研究費用が集まっているんですから」

「…なんのようだ」

「いやいや、わかっているでしょ?」

「見当もつかないがな」

「つれないなぁ、ビジネスパートナーでもある私がいずれここに来ることは わかっていたことでしょ?」

「…私はそうは思わんがな」

「半年前から続いている連続失踪事件……、ご存じですよね?」

「あぁ、知っているとも私のところにも話が来ているよ」

「ではそのうちの数人が失踪する数日前に先生に会っていたという目撃情報があることもご存じですか?」

男が不気味に微笑む、この男の何もかも見透かしているかのような顔が目が私は苦手だ。

私は記者から視線を外し顎にわざとらしく手を伸ばしゆっくりと髭を触る。

「確かに会ったがそれは私の生徒たちだったからだ、教え子に会うことに何の問題があるのかね?」

「その割には心配しているようには見えませんけどねぇ」

「研究が大詰めなんだ心配ばかりしているわけにもいかんのだよ」

「……そういえば、娘さんはお元気ですか?」

「…………君は随分と物知りらしい」

「まあ、こちらが本業ですから」

「………そろそろ失礼するよ」

「そう言わずにもう少しお話ししましょうよ、青山先生」

「ここは立ち入り禁止区域だ、警備員を呼ばれないだけありがたく思え」

「呼ばないんじゃなく、呼べないんでしょ?」

「………なにが言いたい」

「この先にある物を見られるわけにはいかないんじゃないですか?」

「…君は妄想が過ぎるようだな」

「じゃあ見せてくださいよ?青山先生の誰も入ったことのない研究室」

「まだ未完成の研究の最中だ。部外者に、それも君の様な記者に見せるわけにはいかないな」

「それだけが理由じゃないでしょ?」

「ほかに何があるというのかね」

「あっと手が滑りました」


そういうと記者は何かを床に捨てた。

それは写真の様だが暗く何が映っているのかはっきりとはわからない。

だが私はその写真に写るものに心当たりがある。

それは私の研究室だ。

だがそのような写真を私は撮った覚えも誰かに頼んだ覚えもないましてや

誰かに頼むわけもない。


「………なぜ、その写真を持っている?」

「なぜでしょうね、研究室を見せてもらえれば教えてあげてもいいで

すよ?」


この男はどこまで知っている?

私の研究の目的すらもすでに知っているのか?

ここまで来て失敗するわけにはいかない。

悔しがここは言うとおりにするしかあるまい。

私の考えが見えているかのように男の顔に笑みが滲む。

こいつはまるで機械だ、感情も何を考えているのかもさっぱりわからない。 


「………わかった、だが少しだけだ」

「お話の分かる人で助かりますよ、青山先生」


……本当に薄気味悪い男だ。

心底嫌気がさすがそもそも、こいつと手を組んだことが間違いだったのだ。

どうにかこの状況を何とかせねば……。

ため息が出そうになるが押し殺す、ここで動揺を悟られるわけにはいかない。

背中に感じる寒気に耐えながら平静を装い廊下を歩く。

ここまで来て失敗するわけにはいかないんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る