魔法耐性

 少女、もとい肉壁にくかべの魔法耐性を得るために訪れたのが、この魔法国家。強い魔力を有している者を探しに来た。


 この魔法国家全体が保有する魔力量を示すあたいは『###測定不能』。魔道具で計測可能な限界値を超えるため、エラー表示となる。道中で滞在した国々では、数値が表示されていた。だから、魔法国家の名に相応しい結果だといえる。

 とはいえ、どの程度の魔力量があるのか気にはなる。保有している魔道具では、計測出来なかったけれど、計測に用いる魔導具の性能が良ければ、計測出来る可能性がある。

 様々な魔導具を入手しては試行してみた。しかし、結果は変わらず――あたいを知ることは出来なかった。けれど、相当な魔力を保有していることはわかった。

 肉壁にくかべが効率的に魔法耐性を得ることに対する期待は高まる。

 とはいえ、どうしても腑に落ちない点がある。本来、土地が有する魔力量が大きいほど、周辺に生息するモンスターは強い。厳密には、強い魔力に長時間あてられることにより、強力になる。けれど、周辺には叩くだけで消滅する程度の、弱いモンスターしか存在しなかった。


 表向きは、魔法学校の生徒や冒険者が安全に修行出来るようにということになっている。

 おそらく――推測の域を出ないけれど、この国の土地自体が持つ魔力量は少なく、総魔力量は、個人の魔力量に依存している。

 しかし個人が一箇所に永続的に滞留することはなく、流動している。そのため、周辺に影響を及ぼせるだけの安定性が無いことが、弱いモンスターしか存在しない原因だと結論付けつろんづけた。

 となると、魔法国家とは名ばかりで、魔力量が多い原因は、優秀な魔法士が多く集まっているためということになる。


 来訪の目的は、魔力そのものを求めているわけではなく、特に優れた魔法士の協力を得ること。膨大な魔力の根源が魔法士であることが明らかになったことは、むしろ好都合。

 肉壁にくかべに強い魔力を当て、効率的に魔法耐性を得ることが出来れば、来訪の目的を達せられる。


  * * * 


 魔法国家に来て数日。それなりの魔力量を有する魔法士は多く居た。けれど、特筆する程優れているわけではない。その程度であれば、魔王城周辺のモンスターの方が、強い魔力を有している。


 期待外れ――魔道具を片付け、撤収しようとした際、近くを通りかかった少女を誤って計測してしまった。


 魔道具が示したあたいは『###測定不能』。


 この現象は、たった一人の少女、もとい魔力袋が、魔法国家全体が保有する魔力量相当の魔力を有していることを示す。とんでもないことだ。この魔法国家の魔力量が、計測出来ないほど大きい理由は、魔力袋が居ることが一因だと認識を改めた。

 

 この日から、俺は魔力袋を観察し始める。

 観察しているうち、魔力袋の両親は、魔力袋が冒険者になることを望んでいると知る。

 魔力が高い人や場所は、魔力感知スキルを習得している者であればわかる。誰でも習得可能なスキルであることもあり、魔力袋が優秀な魔法士になる資質を有していると、漠然と認識している者は多い。そして期待もされている。

 膨大な魔力を保有しているのだから、客観的きゃっかんてきに判断しても冒険者は適切な進路だといえる。

 ただ、現状は、あくまで優秀な冒険者になる可能性に期待されているだけ。


 魔力袋は唯一無二の存在。しかし、魔力袋が一般的な村人としての生活を送っている状況から察すると、未だ魔力袋の特性を正確に認識している者は居ないことが伺える。

 俺は魔導具を用い、人や物の魔力量を計測することが出来る。しかし、一般的な冒険者はあたいを測ることすら出来ない。ギルドに冒険者登録した後、計測したあたいを自己申告することにより共有される。正確なあたいは、本人のみが知っている。

 社会のルールでは、そういうことになっている。


 俺は、魔力袋について仮設を立てた。

 魔力袋は自身に対する全ての魔法を無効化出来る。身体からだから溢れ出ている微小な魔力が、相手から向けられる魔力よりも遥かに強いため、身体からだに辿り着く前に相殺そうさいされると考えた。

 仮にそうだとすれば、彼女とパーティを組むことで、メンバー全員がその恩恵を得られる可能性が浮上する。

 魔力袋は、膨大な魔力を有しているだけでも十分過ぎる程の価値がある。しかし、この仮説が正しければ魔力袋の価値は格段にはね上がる。


  * * * 


 魔力袋の両親がオークションに関心を持つよう促した。そして無事、出品手続きが済んだ。


 事前情報の無い魔力袋は、もっさりとしている単なる村娘むらむすめ。掲示されている文章は『魔力適性有り』のみ。膨大な魔力を有しているとは記されていない。魔法国家に居る人間が、魔力適性を有していることは、特筆する特徴ではない。

 入札者が想定している使途は、なぐさものにすることくらいのもの。冒険者として使うつもりなら、即戦力となる者を選ぶ。そのお陰で、俺の全財産程度の金額で落札することが出来た。いや、かなり見栄を張った。

 それなりに風貌が整っている少女には、高値が付く。このために多くの借金を――先行投資をした。『程度』なんて表現は適切ではない。返済し終えるまでに軽く十年は掛かるだろう金額。


 しかし、そんなことは些細な問題。魔力量が高い子どもが産まれれば、オークションに出してすぐに元を取れる。出産促進剤を飲ませ、沢山産ませれば、何人か当たりが出るだろう――。

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