46.「シリアスクラッシャー登場」

「暗夜の復讐鬼」エドマンド・モレー。

 生前に復讐を果たせなかった騎士は、死後も現世をさまよい、仇敵きゅうてきイーモンのような「嘘つき」や「卑怯者」を斬り捨てる怪異となった。

 いつしか「悪いことをしたら、斬られてしまうよ」と、親が子どもに聞かせる怪談にもなり、イギリスのとある地方では長年のあいだ語り継がれていたという。


 噂は多くの人に語られるうちにやがて姿を変え、「軍人が現れる」だとか「悪いことをすればどこかに連れて行かれてしまう」だとか、様々な怪談に派生した……とも。


「怪異」の中でも知名度が高く、強力な部類ではあるけれど……それは、エドマンドにとって救いを意味しない。

 彼は未だに「復讐」に囚われ、イーモンと自分自身を呪い続けているのだから……。


「レイラ、エドマンド」


 床に座り込む兄妹に語りかける。レイラはベールで覆い隠したままの顔をこちらに向け、エドマンドは、虚ろな瞳をあらぬ方向に向けたまま血の涙を流し続けていた。


「そろそろ、自分を許してあげなよ」

「……!」


 レイラの肩がびくりと震える。

 口を開こうとして躊躇ためらうレイラの口元に、ニコラスがサッとマイクを差し出した。……なにこれ取材?


 レイラはおずおずとマイクを握り締め、「えっ、……と……」震える声で語り始める。あ、話してくれるんだ……いい子だな……。


「私……イーモンのことが好きだった。あんなことをされても……それでも……今でも、あの人が好きなの。でも……でも、兄さんも……チャールズ様も……そのせいで……」


 はらはらと涙を流しながら、苦しげに語るレイラ。その声にエドマンドはハッと顔を上げ、叫んだ。


「否!!!!!」


 途端にハウリングするマイク。み、耳が……キーンってした……ゴードンもレイラも耳押さえてる……ニコラスだけ平然とし……あっ、耳栓してる! こ……こいつ! 察しが良すぎる……!!


「ああ……」


 あ、すっかり忘れてたけどアルバートもいるんだったね。

 なんかゾクゾク身を震わせてるけど……え、何。変態こわ……。


咎人とがびとは……」


 ニコラスはしれっとマイクを引っ込め、エドマンドは苦しげに言葉を絞り出す。

 赤く染まった瞳が不安定に揺れ、彼が正気と狂気の狭間にいることを伝えてくる。


「咎人は……私……。私、だ……。お前が責めを負うことなど……何も……」


 どうにかそれだけ絞り出すと、エドマンドの頬に透明な雫が伝う。

 そのまま、エドマンドはふっと意識を失った。大柄な身体ががくりと崩れ落ち、ゴードンが慌てて支えに行く。


「レイラちゃん」


 心配そうに兄を見つめるレイラの肩を叩き、声をかけた。


「一緒に。幸せなところ、お兄ちゃんにもいっぱい見せてあげようね」


 ぽたり、ぽたりと雫が床にしたたる。

 レイラは指先で涙を拭い、「……うん」と、確かに聞き取れる声で返事をした。


「ケケケケケケケケケケ」


 ……ん? なんか聞こえるな。この声は、確か……


「お待たせー!!!! 身体メッチャ温まった!!!!!」


 破壊されたドアから、高速ブリッジ走りで現れるリナ

「ジャーン!」という効果音がどこからが鳴り響き、ゴードンが思わず吹き出したのが横目に見えた。


 ああ、もう!

 今、すごくいい感じの雰囲気だったのにー!!

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