42.「その設定、原作になかったよね!?」

 わたしの能力を駆使くしし、食堂に小さなステージを作り出す。そこで、練習する手筈てはずになった。楽器や機材はニコラスが用意してくれたし、それなりに様にはなったと思う。

 緊張した面持ちで、ステージを見つめるレイラ。リナの方は「アップしてくる!!!!」と廊下を走り始めてから全然帰って来ない。どこ行ったのアイツ。


 レイラは小刻みに震えながらマイクの前に立ち、おそるおそると言った様子で口を近付けては離れてを繰り返している。

 わたしもメガホンを持ち、用意したディレクターズチェアに腰掛けた。ゴードンに「お嬢何してんスか」って言われたけど、ほら、形って大事じゃん。


「ほらほらレイラちゃん、頑張って! レイラちゃんならできるよ!」


 わたしの激励げきれいに、レイラは何とか勇気をふるい立たせたらしい。

 マイクに口を寄せ、声を発し始めた。

 

「──ん──な──えお……」


 あめんぼあかいなあいうえお。

 発声練習の基礎と言えば、やっぱりこれだよね。


 とはいえ、ところどころ聞こえはするけれど、まだまだ断片的にしか聞こえない。


「レイラちゃんもう少し! もう少しだけ頑張ってみて!」

「……──り、──だ──」


 何か言いたいみたいだけど、その言葉も断片的にしか聞こえない。


「ニコラス、マイクの音量上げて」

「ヒヒヒッ、あいよ」


 ニコラスがマイクの音量を上げたことにより、レイラの緊張した息遣いが食堂に満ちる。

 レイラは震えながら、どうにか言葉を紡いだ。ベールで隠しきれなかった口元に、一筋の涙が伝う。

 

「……やっぱり、無理だよ」


 少し掠れてはいるけれど、綺麗な声だった。

 子鳥がさえずるような、小川のせせらぎのような、心地よい声……。


「わ、私の言葉は……呪いになってしまう、から……」


 ぽろぽろと涙が溢れ、レイラは顔を覆う。

 レイラちゃん……

 この子の心には、深い、深いきずがある。……分かっていたとはいえ、目の当たりにするとやっぱり辛いものがあるね……。


「……これ、最初からマイク使えば良かったんじゃ?」

「ゴードン、今は空気読んで」


 正直、わたしも同じこと思ったけどさ!!


 ……と、唐突に食堂のドアが開く。

 金髪の男へんたいがひらりと身軽に飛び込んできて、軽やかな手つきでドアを閉めた。


「やあ、みんな。楽しそうだね」


 キラキラと輝く笑顔でわたし達の方に挨拶するアルバート。

 誰かが返事をする前に、ドアが派手な音を立てて粉砕ふんさいされた。案の定、血の涙を滴らせたエドマンドが肩をいからせて現れる。


「復讐のときはきた……! 我が怨嗟えんさ永久とこしえの業火となろう!」

「ああ……やっぱりイイね、君。僕の心の虚無も、これで埋められる……!」


 虚無って、もしかして失恋の件? 

 こいつ、エドマンドとの戦闘プレイで失恋の悲しみを紛らわせようとしているの??

 

「……ッ」


 ……と、レイラが苦しそうに息を飲んだ。

 レイラとエドマンドは生前からの知り合いだし、レイラにとっては夫とも縁深い相手だ。思うところも色々あるんだろう。

 エドレイもまあ、よく見るしね。pixerbで。

 エドマンド、本当はレイラのこと好きだったんじゃないの? という考察もチラホラ見た。とはいえ「亡き主君の妻だから、未だに主君への忠義を果たそうとしている」という解釈も根強い。レイラとエドマンド、二人ともの意思疎通が難しい以上、真実は謎のままだけど……


 なんて考えていると、レイラは意を決したようにマイクスタンドを握りしめた。

 震える声が、食堂内に響き渡る。


「……やめて、兄さん……!」

「……! 奥……方、様……いや……」


 レイラの叫びが届いたのか、エドマンドは目を見開いて彼女の方を見た。


「……レイ……ラ……?」

「兄さん……! あの方は……チャールズ様は、貴方が苦しみ続けることを望まない……!」

「う……ぐ、ぁあぁあぁあっ」


 レイラの呼びかけに、エドマンドは頭を押さえてうずくまる。 

 

 あー、なるほどね。兄妹だったのか。

 そういえば、黒髪どうしだねこの二人。レイラは「夜」って意味の人名だし、エドマンドは「暗夜の復讐鬼」かつ「夜の騎士」だし、怨念とか復讐とか、何やかんや共通項も多……

 

 ……って、待て待て待て!!!

 唐突に衝撃の真実をお出ししないでー!?

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