32.「変態VSヘタレ」

「僕と彼女は同質の存在だ。同質の欲望を抱えた僕には、彼女の痛みと孤独が理解できる! ありのままの彼女を認め、受け入れることができるはずだ……!」


 どうしよう。何だかヒートアップしてるみたいだけど、何を言っているのかよく分からない……。

 だって、わたしは誰かを傷つけたり苦しめるのが「気持ち良かった」わけじゃない。チェルシーわたしは虐げられ続けた鬱憤うっぷんを、どうにか晴らしたかった。……言ってしまえば、八つ当たりだ。

 困惑しているわたしを他所に、ゴードンの方も盛り上がり始める。


「決めつけんじゃねぇ!!!」


 えっ、これ……わたしはどうすれば良いの?

 どっちの人生でもモテた経験一切ないんだけど? モテるのって意外と嬉しくないもんだね。相手がアルバートへんたいだから?


「俺は……俺は、確かに何にもできなかったよ! 守れなかったし、支えられなかったし……認められなかった。それは、事実だ」


 ゴードンは拳をきつく握りしめ、悔しそうに歯噛みする。

 いや仕方なくない? 自分のことながら、あんな激ヤバ女レディ・ナイトメアを相手に尽くそうとしただけ偉いと思うよ、うん。


「だけど! 誰よりもお嬢を見てきた自信はある! お前みたいに、自分に都合のいいように歪めたりはしねぇ!」


 …………。

 ズルいよね。そういうとこ。

 ヘタレで小物なくせに、軸も思想も行動もブレブレなアホのくせに、時々すっごくカッコよくなる。

 ……そういうところが、前世むかしから好きだった。


「……自分の方が彼女を理解している。そう言いたいんだね」

「逆だよ。ちっともお嬢のことをわかってねぇんだ」


 ゴードンのあおい瞳に見つめられ、アルバートのあおい瞳が揺らぐ。

 ……その視線はわたしの方を向き、やがて、全てを悟ったように天井へと向けられた。


「……はは……っ、その顔を見たところ……レディも同じ気持ちのようだね……」


 濃い霧が、部屋の中を覆う。

 思わず身構えたけれど、次の瞬間、霧は綺麗に晴れていた。

 アルバートの服も、綺麗に整えられた状態で身に付けられて……えっ、何それ。どうやったの? 早着替え?

 

「けれど……何が根底にあったとしても……欲望のカタチが違ったとしても、所詮しょせんは『それだけの違い』でしかない。僕達は結局、同質の『化け物』なのだから……」


 それだけ言い捨て、アルバートは立ち去っていく。

 後には、呆然と佇むわたしとゴードンだけが……あ、違った。プラス、床でカーテンを被って寝こけるエドマンドが残された。


「ヒヒッ……『怪異』としては勝てても、『恋敵こいがたき』としては勝てないと踏んだんだねぇ……可哀想に。後でつつきに行こう」


 ……あっ。

 すっかり忘れてた。ニコラスもいたんだったね……。

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