2. 運命の邂逅

 昔むかし、あるところに、一人の盗賊がいた。

 盗賊は、自分がこの世で最も強いと信じて疑わなかった。彼にとって物を盗むことは呼吸と同じで、人に害なすことは蚊を叩くほどに容易なことだった。命を奪うことですら、彼にとっては「強さの証明」でしかなかった。


 盗賊はある日、いつものように強盗に入り、いつものように館の住人を殺して回った。

 けれど、いつものように金目のものを漁っていた時、彼の運命は変わってしまった。


 桃色の髪の愛らしい少女が、頬を朱色に染めながら近付いてきたのだ。

 その身体は傷だらけだった。……盗賊は、彼女の姿を初めて見たというのに。


「ありがとうございます」


 少女は満面の笑みで言った。


「お父様とお母様を、殺してくださって」


 盗賊は当時18歳。少女の歳の頃は16歳ほど。

 良い年頃だった。……出会いが「こんな形」でなかったのなら、恋に落ちたことを誰もが疑問に思わないだろう。


「ねぇ、まだ、意地悪な使用人たちが残っていますわ」


 少女は盗賊の手にすがり付き、甘えるように言った。


「殺してくださる? 貴方なら、できますわよね」


 盗賊はごくりと息を飲み、頷いた。

 血臭と死臭が満ちる館の中、少女は使用人を見つけては無邪気な声で盗賊を呼んだ。


 やがて、館が死体だらけになった頃。

 少女はまたしても無邪気に言った。


「ねぇ」


 返り血まみれの盗賊の手を引き、少女は、まばゆいばかりの笑顔で死体の山を指差した。


「首を、取ってくださる?」


 盗賊は頷いた。彼は少女に恐れをなしながらも、魅了されていたのだ。


「これだけあれば、たくさん遊べますわね」


 盗賊は言われるがまま死体の首を落とし、少女に差し出した。少女は死体の首に触れ、嬉しそうに笑った。


「見てくださいな。この方、あんなに意地悪だったのに!」


 無邪気な笑顔を浮かべたまま、少女は生首の眼に指を突っ込み、そのままえぐりとった。


 後に少女は「レディ・ナイトメア」、盗賊は「首盗りゴードン」と呼ばれ、二人揃って「怪異」として恐れられるようになる。


 ……とんだ、黒歴史の始まりである。

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