7を出したら良くないことが起こるゲーム

石月 和花

7は出さないで

いわゆるボードゲーム沼というジャンルに足を突っ込んでしまった人間ならば、「カタンの開拓者たち」というゲームの名前は聞いたことがあるだろう。


この「カタンの開拓者たち」は、私にとって好きな部類に入るゲームである。


カタンは、大会も開かれる程に人気のあるゲームで、ダイスを振ってその出目によって貰えるアイテムが決まる、運要素で成り立っているゲーム


…と、思われがちだが、このゲームの本質は交渉なのだ。


ダイスの出目で貰えるアイテムが決定するので、欲しいアイテムが揃わなかったりままならない事が多い。

しかし、アイテムを貰った後は、他のプレーヤーと自由に交換をして良いのだ。


そう、他のプレーヤーといかに自分の有利がバレないように、でも自分が有利になるように交渉を成立させる事がこのゲームにおいての必勝法であり、コレが出来る人はダイスでの運要素なんて簡単にひっくり返せるのだ。


さて、私はというとこの「カタン」というゲームは好きだが、人との交渉というのがとにかく下手である。

自分から交渉する時は、自分が下手に出てしまうし、相手に交渉を持ちかけられた場合には、価値を釣り上げるということをせずに、相手の提示ですんなり交換に応じてしまうからだ。


交渉が苦手な私は、当然「カタン」が強い訳ではない。

強い訳ではないが、この「カタン」というゲームは、何度も遊びたいと思ってしまうのだ。それは何故か。


それは「カタン」には、運要素でも勝てる可能性があるからだ。


この運要素と言うのは、例えばダイスの出目に恵まれて、アイテムが交渉の苦労をせずに簡単に揃えられたりする事も勿論そうなのだが、


その他にも、特定のアイテムを支払う事で「発展カード」と呼ばれる、様々な特殊効果のあるゲームを有利に進める可能性が高いカードを貰えるので、私はこの「発展カード」による形勢逆転劇を、どうしても夢見てしまうのだ。


何が出るか分からないが、効果に期待してアイテムと交換して発展カードを得る行為を、一部界隈では「発展ガチャ」と呼んでいる。


これは、スマホで遊ぶソーシャルゲームの多くで採用されているガチャガチャを引くことでランダムにゲーム内の強力なアイテムが得られる仕組みになぞらえて、「発展ガチャ」と呼ばれているらしい。


多くのソシャゲがそうであるように、超強力なレアカードは、そうそう手に入らないが、手に入る可能性はゼロではない。

稀に入手出来きるし、過去に超レアが入手出来たという成功体験があると、また入手出来るのでは?と思ってしまう。

入手出来ない可能性の方が圧倒的に高いのに。


話をカタンに戻すと、私はカタンにもこのギャンブル性を求めてしまっている。

発展ガチャで貰える一枚のカードに、

それが超レアカードである事を夢見て望みを託して一喜一憂する事を楽しんでいるのだ。

実際は一喜一憂なんてモノじゃなく、一喜三十憂くらいが妥当なところだが。

後、実際の発展カードには超強力なレアカードなんてものはなく、良くて今の盤面の流れを変える切札になり得る位のカードだが。

それでも、私は発展ガチャに夢見てしまう。


発展ガチャでカタンに勝てた事、一回位しか無かったと記憶しているが、それでも私は発展ガチャに夢見てしまう。愚か者だろう。


そもそも、私だって最初から発展ガチャに頼っていた訳ではない。最初はそれは堅実にカタン島を開拓していたのだ。不慣れながらに他人と交渉して、道を作り町を作り…。丁寧に一歩ずつ開拓を進めていったのだ。


では何故、私はこのように一発逆転を狙う様になってしまったかというと、それは、ダイスで7を出すプレーヤーが現れたからだ。


平和なカタン島に奴が来てしまったのだ。

盗賊だ。

カタンでは7を出すと盗賊が来るのだ。

そして盗賊は無慈悲にもプレイヤーが集めていた資材を奪うのだ。


それまでそれぞれのプレーヤーが、きゃっきゃウフフしながら、それぞれのペースでそれぞれの開拓を進めていた平和なカタン島に突如現れた盗賊は、今までコツコツ貯めてきたアイテムを、問答無用で半分掻っ攫っていくのだ。

極悪非道である。


手元のアイテムが少ないと、強奪被害からはスルーされるというルールでもあるので、アイテムのある所からしかモノを盗りませんという義賊設定みたいだが、だからどうした。迷惑には変わりない。


そんな盗賊が出現する可能性があるから、開拓者たち(プレーヤー)は、せっかく貯めたアイテムがなくなってしまう事に恐れながら開拓を進めることになるのだ。

多くのアイテムを手元に貯めて置いても、盗賊に盗まれてしまったら、元も子もないと私は気付いてしまったのだ。


実際、堅実に資材を貯めていって、次の手番で街をアップグレード出来るぞって時に、他のプレーヤーに7を出されてしまって盗賊の襲撃にあい、やりたかった開拓行動も資材不足により出来なくなってしまった。

というような事が何度もあったのだ。


そんな目に何度もあっているのだから、出目7が憎くなるのも自然の摂理だ。


そして、このような状況下に陥り、それでも開拓が先行している他のプレーヤーに勝つために私が可能性を見出したのが、「発展ガチャ」であった。発展ガチャをする為に必要な資材は、三つと、開拓行動の中では数が少なくて済む方なのだ。


だから私は、盗賊に盗まれないように少ない手元資材に抑えて、且つ、形勢逆転がありうる発展ガチャに夢を見てしまっているのであった。


そして発展ガチャの魅力に取り憑かれてしまった私は、それ以降は発展カード戦術に舵を取り、鉄と羊と小麦を集めては「発展カード」と引き換えていったのだった。


けれども、これで問題が解決した訳ではない。盗賊は如何なる場合でも現れるし、少しでものだ。


誰かが出目7を出したら、呼んでもないの勝手にやって来るから盗賊は本当に厄介だ。

空気を読んで欲しい。


それに盗賊が出るなんてカタン島の治安が心配だが、それはダイスの出目次第なのだ。

要は、誰7を出さなければカタン島はずっと平和で居られるのだ。


だから私は、誰も7を出さないようにと、人知れず心の中で強めに念じながら、今日もカタン島を開拓するのであった。

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