アンラッキー×7

そばあきな

アンラッキー×7


 どうやら今日はとことんツイていない日らしい。

 

 まず、登校途中で水溜りに足を突っ込んだ。

 学校に着いたら玄関前に敷かれたすのこに足が引っ掛かって下駄箱に頭をぶつけ、教室に入ろうとしたら前を歩いていたクラスメイトが俺の存在に気付かず扉を閉め、思いっ切り扉に顔を打ち付けた。

 授業ではよりによって分からない問題で先生に当てられ、好きな体育ではハードルにすねをぶつけた。

 給食では使っていたスプーンを二回落として予備がなくなり洗いに出て行き、行った先の洗い場で急に水が勢いよく吹き出して目に水が入った。


 そして、今。

 昼休みになり、いつものように篠宮しのみやさんがいる中庭に向かっていたら、篠宮さんの見ている前でどこかから飛んできたボールがぶつかってよろけ、俺は地面に倒れていた。


「……獅堂しどうくん、大丈夫?」

 動けなかった俺の代わりにボールを誰かに返してくれた篠宮さんが、こちらに駆け寄って声をかけてくれる。相変わらず表情の方は微動だにしていなかったけれど、声色から心配してくれているのは分かった。


「……うん、大丈夫。ありがとう。今日はツイていない日みたい」

 そう言って、俺はへらへらと笑う。


 篠宮さんも同じクラスだから今日の俺のツイてなさも分かるはずだと思ったのに、俺の顔を見た篠宮さんはどこか寂しそうな目をしていて。


「大丈夫、じゃないよね。獅堂くん」

 その目が、他の友達とは違う反応に見えて、不覚にもドキリとしてしまった。



 ――水溜りに足を突っ込んだこと。すのこに足が引っ掛かって下駄箱に頭をぶつけたこと。扉に顔を打ち付けたこと。分からない問題で先生に当てられたこと。ハードルにすねをぶつけたこと。スプーンを二回落としたこと。洗い場で急に水が勢いよく吹き出して目に水が入ったこと。そして、飛んできたボールがぶつかってよろけ地面に倒れていたこと。


 一つ一つは小さなものだけど、それが積もれば今日は何をしてもダメな日だと思いたくもなる。


 ただ、俺のキャラだとそんな不幸たちも「キャラ的に美味しい」と思われていたみたいだった。


 別に同情されたかったわけじゃない。

 それでも、俺だって嫌なことがあれば普通に落ち込むことはある。

 ムードメーカー以前に、俺は一人の人間だから。


 そんなことを言ったってしょうがないのは分かっていたから、口にしていなかったのに、篠宮さんは見抜いているみたいだった。

 どこか寂しそうな目のまま、篠宮さんは口を開く。


「……獅堂くんと比べたらいけないけど、私も『表情に出ないから気にしてないんだ』って言われることがあるから、分かる気がするよ」


 俺も、篠宮さんと比べたらいけないけど、周りに「気にしていない」と思われている篠宮さんの言葉が分かる気がした。


「だから、そんな獅堂くんに」と、篠宮さんが俺に何かを手渡す。

 見ると、それはよく花壇の端に咲いているのを見かける小さな白い花だった。


「カスミソウっていうんだ。花言葉は『幸福』だよ。明日はラッキーな日になるといいね」


 そう言った篠宮さんの顔が、笑ってないけれど笑っていたように見えて、心臓が跳ねた気がした。


「……ありがとう、篠宮さん」


 篠宮さんに心配されて、「明日はラッキーな日になるといいね」と言われて花まで手渡されて。



 それだけで今までの七つの不幸が帳消しだと思えてしまうなんて、俺って単純だな、なんて思いながら、俺は篠宮さんにさっきよりも自然に笑い返せた気がした。

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