第5話 信じた証

 あかりは焦っていた。この掃除の時間が終わったら、あとは5時間目があって、その後はもう下校だ。ここまで、隠したもののヒントは何一つつかめていない。


「かえる様、最後のチャイムがなったら、もう帰らなきゃいけないんだよね?」

「そうだよ。正確にはチャイムが鳴り終わったら、だね。その時には最初にいた鳥居の前に行かないといけないよ。じゃないと、取り残されて君の居場所はなくなっちゃう。」


また桜色になったかえる様と共にあかりは学校内の怪しいところを調査したが、何もわからなかった。こうなったら、最後直接聞くしかない。変なやつと思われようが構わない。自分はすぐにここからは消えてしまうのだ。


幸いにも菜々美のクラスの授業は少し早めに終わっていた。それに伴ってクラスの下校も早まった。菜々美を逃すまいと、教室のドアのところであかりは待ち伏せした。


「あ、あかりちゃん!ちょうどよかった。」


どうやら菜々美の方でも、あかりに用事があったようだった。「こっちこっち!」とあかりがなにか言う隙を与えず、菜々美は引っ張っていった。


着いたのは記念館、今の時代では図書室だ。司書教諭にあいさつし、菜々美は端っこの机の上にランドセルから出したものを置いた。そしてこそこそとあかりに囁いた。


「あのね、さっき思いついたの。あかりちゃんが元気付けてくれた時にこれだ!と思って。」


菜々美が取り出したのは可愛らしくハート型に折りたたまれたノートの1ページと、それがちょうど入りそうな小さなお菓子の缶だった。


「『元気に生きるって知ってる』って言ってくれたとき、すごく安心できたっていうか、勇気が出たっていうか…。だからね、私それを信じる証に未来の自分に手紙を書いたの。これがあるって思えば気持ちが弱くなっちゃっても、きっと大丈夫だから。私はこれを未来で受け取る。」


これだ!あかりは確信した。母親が隠したのは自分自身へ宛てた手紙。生きることへの希望の灯火。


「でね、良くないんだろうけど、あそこの床下に隠そうと思ってて。」


記念館の隅っこの床が、自分の時代でも一箇所ガタガタと緩くなっていることをあかりは思い出した。


「それで、その…良かったらあかりちゃんも手紙一緒に入れない?」


あかりが「もちろん」と返事をしようとしたまさにその時、かえる様がまたきゅっと服をつかんだ。


「そろそろ鳴る。鳥居の前に戻るよ。」


あかりは菜々美に目を向ける。菜々美は懇願するような顔をしている。しかし…


キーンコーンカーンコーン…


チャイムが鳴り響く。かえる様がさらに強く服をにぎる。


「ごめん、私どうしても行かないと…!」


あかりは前髪につけていたピン留めを外して手渡した。


「これ、一緒に入れて!また会おう!!」


本日何度目かわからない不思議そうな顔をしている菜々美を図書室に残し、あかりは鳥居へダッシュした。


キーンコーン…


もう少し!運動会のリレーでも見せたことのないような走りをあかりはしていた。


カーンコーン


「ぎりぎり間に合ったね!」


かえる様はピョーンと鳥居の向こう側の石の上に跳び乗った。瞬きの後、かえる様は石に戻っていた。

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