Correct

浅草みなみ

第1話

寂しがり屋だなんて、言い訳だ。


人は誰しも寂しくて、寂しさを紛らすためにもがいている。


私には、寂しくなった時、電話をかけてしまう異性がいる。  

彼に彼女がいると知りながら。


彼の名前は優弥という。出会いは、大学一年の秋の頃だった。私が働いていたカフェのアルバイト先に新しく入ってきたのが、優弥だった。私は驚いた。私と優弥は幼馴染で、小学校を卒業して以来、初めての再会だった。優弥は受験をして優秀な中学に行ってしまったから、私たちは久しぶりに出会ったのだった。


私は運命という言葉が嫌いだ。だから、あえて言うならばそれは当たり前のことだった。私と優弥が再び出会うということなんて。


私は優弥のことが好きになってしまったけれど、それは「久しぶりに再会した幼馴染が、かっこよかったから」なんて理由じゃない。


彼が私のすべてを受け入れる存在だったからに他ならない。


優弥は余計なことを語らない。時折、相手の目を見つめながら、優しさを捧げる人だ。


彼には魅力がある。 私はそれにちゃんと気づいたのだ。


彼と再会して1か月ほど経った頃、私は優弥を食事に誘った。彼は快くOKした。


私は知りたくてたまらなかった。彼が中学、高校、大学と、どんな人生を歩んできたのか。本当は再会してすぐにでも食事に行きたかったが、大学のテスト勉強で忙しそうな優弥を無理やり誘うことは避けていたから。


彼は予想通り、キラキラとした学生時代を過ごしていた。サッカーと勉強を頑張りつつ、友達ともよく遊んでいたらしい。完璧な青春。誰もが憧れる存在。彼が決して自慢げには話していなかったが、彼の放つオーラは間違いなく、その事実を物語っていた。


私は聞いた。

『彼女はいるの? 』


彼は答えた。

『いるよ』


私は時が止まった気がした。予想していたことであっても、驚きが隠せない。そんな矛盾を感じながら。


『どうした? 』

彼は尋ねた。私に。


『ああ、意外だなって思って』

私は平然を装った。


『でも、俺たち、お互いを束縛してないんだよね』


『え? 』


『異性と2人でご飯行くのも全然OKにしてる。だから今日も別に気にしないで』

彼は優しく微笑んだ。


『じゃあさ』


『ん? 』


『寂しくなったら電話してもいい? 』


彼は一瞬、私から目を逸らした。それが何を意味するのか、私にはわからなかった。


『いいよ』

彼は私の目を見て、言った。まるで、すべてを受け入れるかのように。


『いつでも待ってる』


私は彼に魅了された。深く、深く。



自分のことは大嫌い。

あなたのことは大好き。



深夜、彼に電話をかける前は、いつもそう思っている。



優弥の彼女は、私のことをどう思うのだろう。

夜な夜な電話をかけて、寂しいと呟いてくる女がいることを。


でも、そんなことはどうでも良くなるくらい、私は優弥が好き、好き、好き。


私は彼と話していると、自分が救われた気持ちになる。世界には私と優弥の2人だけでいいと思ってしまう。その事実が愛おしい。


今日は優弥と再会して半年が経った日。きっと彼は、そんなこと覚えていない。でもそれでいい。その方が優弥らしいから。


電話をかけた。優弥に。一番愛しい人に。


『もしもし? 』


彼の声がした。甘い声がした。


『なんか、暇になっちゃってさ』

私は明るく言った。


『そっか。俺もそんな感じ』


『暇って言うか、ちょっと寂しくて』


『俺も同じかも』


『寂しいの? 』


『うん』


『彼女は? 』


『今サークル忙しいみたいで、全然会えてないんだよね』


『そうなんだ』


『早く会いたいな』


早く会いたいな、そんな言葉言わないでよ。


『私と会う? 』


『え? 』


優弥は少しだけ驚いた様子だったが、すぐに


『会おうよ』


と言った。


私はその時、自分がどれだけ正しく、どれだけ間違っているのか、全然わからなかった。だから、今日だけは、勇気が出せる気がした。


『あのさ』


『ん? 』


『私のことどう思ってる? 』


聞いてしまった。


『大好きだよ』


優弥は言った。大好きだと。私のことが大好きだと。


彼は一体、どういうつもりなのだろうか。私が知りたいのはそういうことじゃない。



私の気持ちを、受け入れてくれますか?



1番になれなくてもいいし、遊びだっていい。

私を女として見てほしい。


私が知りたいのは、ただそれだけだった。



『もしもし? 』


優弥の声がした。私は我に帰った。


『あ、ごめん』


『彩果はさ、自分のこと好き? 』


『え? 』


『自分のこと好きでいれば、幸せになれるんだよ』


優弥の優しい声。私が好きな声。


『私はあんまり自分が好きじゃないかな』


『なんでよ、いい子じゃん』


『なんでだろうね』


『俺は好きだよ、彩果のこと』


『ありがとう、私、そろそろ切るね』


『了解。おやすみ』


『おやすみ』


私は電話を切った。泣きそうなことを悟られる前に電話を切った。私は1人で泣く方が好きなのだ。


優弥はいいやつだ。私のすべてを受け入れつつも、私をちゃんと諭してくれる。


でも私は1人で立ち上がることができない。いつまでも甘えてしまう。彼の誘惑につられて、間違った道を歩もうとしてしまう。



自分のことは大嫌い。

あなたのことは大好き。



深夜、彼に電話をかける前は、いつもそう思っている。

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