第19話:アディ視点

「くっ、くくくく。わ、笑わせんなクソ」


 なに人間ランタンになってやがるんだ、あいつは。

 あれも魔法なのか?


「ギャゲッ」

「黙れ雑魚ども」

「ゴブギャァァッ」


 兵士の鎧を拝借して後を追って来たが……心配する必要もなさそうだ。

 それにしてもどうなってんだ、あいつの魔法の範囲は。

 一〇〇メートル近く離れてる俺のところにまで届いてやがるぞ。


 神託によって生まれた聖女……。

 だが他の候補たちにそういった話はない。

 あいつだけなのか? じゃあ、あいつが女神に選ばれた聖女……ってことなのか。


 しかしなんでまた、物理攻撃の瞬間に魔法が発動するなんてことになってんだ。


 あぁ、そういや――

 あいつを連れて森へ狩りに行ったとき、ゴブリンやコボルト相手にしていると時々、体が軽くなることがあったな。

 決まってあいつがモンスター相手に、石を投げたり木の棒を振り回している時だったはず。

 おかしいと思っていたから覚えていたが、こういうカラクリだったのか。

 あんなガキん頃から、片鱗はあったってことだな。


 しっかし――


「あんだけ光ってると、悪目立ちするだろ……」


 襲撃しようと思って山を下りてきたゴブリンどもだ。明かりを見て近づいていきやがる。

 はぁ、今夜は雑魚処理担当だな。






 ようやくゴブリンどもは諦めて逃げていきやがったか。

 あいつも山を下りるようだ。


 セシリアが町に戻ると、住民に囲まれて崇められだした。

 岩が転げ落ちてきたあの時、あいつの周りにいた連中はみんな見ていた。

 あいつの体から光が放たれ、それが町をすっぽり包む瞬間を。

 本人はまったく気づいてないようだがな。


 ま、あんなの見せられりゃ、そりゃ聖女様女神様だと崇めたくもなるか。


 ……そんなガラかよ、あいつが。

 自分が人間ランタンになるようなマヌケだぞ?


 クソ。思い出したら笑ってしまう。


 っと、教会に戻るのか。


 気づかれないように壁伝いに二人の気配を追う。

 二人が部屋に入ると、その外壁に腰を下ろした。


 ・

 ・

 ・


 魔法ってのは何にしてもイメージってのは大事だ。

 神官どもの魔法は、たいてい人助けに繋がる効果なものが多い。

 だから助けたいっつう気持ちが大事なんだろうが、それを具体的にするのが祈りだってんだろ?

 それは分かる。


 なんであいつの場合、それが物理攻撃なんだよ。

 破壊僧か、あいつは。


 ま、なんにしろ魔法が使えるってことは分かったんだ。

 これでめでたく聖女様ってことだな。


 あの鼻たれで泣き虫で食い意地のはったガキが聖女、か……。


「そういやあいつ、そろそろ誕生日じゃなかったか?」


 十五……いや、十六か。


 相変わらずあいつは焼き菓子が好きなようだな。


「くっ……契約の呪いか……」


 ピリっと全身に痛みが走る。この程度の痛みならたいしたことはない。

 早いとこ契約を破棄してくれりゃいいんだが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る