第13話:アディ視点
あのじーさん、何者だ?
完全に気配は殺していたはずだってのに、俺に気づきやがった。
それにしてもグレムリンか。ってことは、デーモン使いのカオスだな。
思ったよりギルドの動きが早いな。
依頼の破棄はなし。依頼主も諦めてねえようだ。
依頼主は後妻の女。侯爵家を娘に継がせるのに、セシリアが邪魔だったんだろう。
ま、侯爵家の取り潰しは決まったようなもんだ。
依頼料を支払えなくなりゃ、ギルドの方が依頼の中断をするだろう。
その決定が下されるまでは油断できねぇが。
「いるのだろう」
あ?
「ちょっと話をしたいのだけどね、いいだろうかアディル君」
大神官のじーさん!?
な、なんで俺の名前をっ。つか、気配を消してんのに、何故気づきやがったんだ。
腐っても大神官ってことか。
「なんの話だ」
「木の上が好きなんだねぇ。まぁ仕方ないか」
「なんで俺の名前を」
「セシリアに聞いたんだよ。あの子はアディと呼んでいるそうだけど」
あいつ、喋りやがったのか。
「君のことを本当の家族だって言っててね。お兄さんのようだって」
「ちっ」
「それで、先ほどのグレムリンだけども」
「暗殺ギルドの奴だ。俺が始末する。あんたらは何もしなくていい」
「ギルド? なるほど、邪教徒ではないのかい」
邪教徒?
そうか、聖女の存在が疎ましい連中だな。そんな奴らからも狙われるのかよ。
くそっ。
「しかし狙いはあの子だろう? いったい誰が……」
「侯爵家の後妻だ。セシリアに生きていられちゃ、侯爵家の財産を手に入れられねえからだろう」
「はぁ……。ん? しかし侯爵家はお取り潰しが決まっただろう?」
「なんだじーさん、知ってんのか」
「ということは私怨かねぇ。娘が聖女の資格もなく、その上方々に知られたくない事情も知られてしまったし。まぁ自業自得なのだがね」
まったくだ。
口約束の婚約をあちこちの男と結んで、その度に高価な装飾品を要求。
母親も自分の娘の婚約をチラつかせ、何人もの下級貴族からたんまり支度金を頂いてんだ。
母子揃ってロクでもねぇ女だぜ。
もっとロクでもねぇのが侯爵だがな。
まさか再婚相手の娘とも関係をもってやがったとは。
ま、それが止めになって、信頼も失墜して事業で大赤字になったんだがな。
「ギルドに金が入らないとなりゃ、依頼を破棄するはずだ。それまであいつのことは俺が守る」
「分かっているよ。君が来たのは十日ほど前だったかねぇ」
はじめっから気付いてやがったのかこのじーさん。
ちっ。食えねぇ野郎だ。
「ところで、ちょっと聞きたいのだけど」
「あぁ? 今度はなんだ」
「うん。セシリアのことなんだけどねぇ。あの子、魔法を使えたりは?」
「知らねえよ、んなこたぁ。少なくともガキの頃は魔法なんて使えてなか――」
使えなかったよな?
使えなかったはずだ。
けど、あいつがいなくなってから、おかしなことに体が重く感じていた。
いや、あいつと一緒に狩りに行くようになって、体が軽くなった気がした。
「無意識のうちに魔法を使ってやがったのか、あいつ」
「やはりそうかい。いやさっきね、グレムリンに襲われた時にあの子に突き飛ばされてねぇ。その時に護りの魔法を付与されたんだよ」
「……じーさん。神聖魔法に相手の力を奪うような、そんな魔法はあるのか」
「力を奪う? いや、そういったものはないが……あぁでも、戦意を失わせる魔法ならあるよ」
それか。この前襲った時、急に力が抜けたのは。
さっきのグレムリンもそうだ。突然ふらつきやがったのは、それだろう。
「そうかそうか。ふふ。やはりあの子なんだねぇ」
「あぁ? なにがやはりだクソじじぃ」
「うん。女神ラフティリーナ様の声を聞いてね。ここより西の地にて、光り輝く翼の下に聖女が誕生する――と。その信託は十六年前にあったのだけれど、当時は見つけられなくてねぇ」
「侯爵家の家紋か……」
「他にもウォーレルト王国には、翼や羽を模した家紋を持つ貴族がいるんだけどね。その年に生まれた赤ん坊はひとりもいなかったんだよ」
セシリアは婚外子なうえ、侯爵は誰にもその事実を話していなかった。
そりゃ探せるわけねえよな。
「じゃああいつは、本当に聖女になんのか?」
「そうだね。本人は自信なさげにしているけれど、なれる――というより、あの子はもうすでに聖女なのだよ。生まれたその瞬間から、ね」
生まれた瞬間から?
まぁそりゃ神託にあったガキだってんなら……あいつが聖女……。
「アディル君」
「あぁ?」
「よろしく頼むね」
「はぁ?」
「じゃ、風邪引かないようにね。おやすみ」
「お、おい……」
行ってしまいやがった。
なんなんだ、あのじーさんは。
よろしく頼むって……言われなくても俺は……あの時果たせなかった約束を、今度こそ守ってみせる。
だが……俺の手は血に染まっている。
こんな薄汚れた手であいつを守ってもいいものか。
ギルドが手を引くまで、それまでは――
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