ため息をつくと幸せが逃げる
泉葵
ため息をつくと幸せが逃げる
パチ屋を出るたびにため息をつく。その度にまた幸せが逃げていくと感じる。
ギャンブルは当てれば当てるほど不幸になる。ラッキーであればあるほど沼にはまって不幸になってしまう。不幸の原因を作り出しているのは自分だって知っている。それでも止められない。
特に翼が座っているスロットは面白い音を鳴らす。金属音のようで擬音に当てはめるならガコッだろうか。これが正解なのか分からない。けれどもたったそれだけで人を魅了する。
「きたっ!」
小さく呟いたつもりだったが、声量を抑えきれなかったような気がして体を縮こまらせた。台の音が鳴り渡る店内で不思議な音は確かに翼の耳に届いた。
台のリール横のランプは青く光っている。
レバーを叩くとテッテレッテレと効果音が鳴り、リールが回転し始めた。
回る絵柄を凝視しながらそのタイミングをうかがう。震える手でボタンを押すと、軽快なBGMが鳴った。横にそろった7の数字を見て、小さく拳を握った。
お店を出て自転車にまたがり、近くの公園へと向かった。
ベンチに腰掛け、財布を開くとお札は何もない。ジュース1本が限界なほど僅かに小銭が入っているだけだ。
翼は深いため息が漏らした。
冷静になれず、当たった分は軍資金として回してしまった。はずれが続き、後に引けなくなると、「取り戻さないと」と思い始め、最終的にはマイナスになった。
太陽はまもなく姿を隠そうとしている。次に返済日まであと2日。口座にはもうほとんど残っていない。
帰り道、スーパーに寄った。
あそこでやめていればと思い続けながら、店内をぶらついた。周りの棚に置かれた肉や魚を見ては腹を鳴らし、一袋30円のうどんを2つ手に取った。
いつかは家を失う。雨風にさらされながら路上で生きていく。
翼は棚から手にとった駄菓子をポケットに入れると、レジに向かうことなくそのまま店を出た。
ここ最近で一番胸が軽やかになった。
ため息をつくと幸せが逃げる 泉葵 @aoi_utikuga
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