クラスの地味な佐藤さんが実は可愛いことを俺だけが知っている
夜桜ユノ【書籍・コミック発売中!】
第1話 隣の席の佐藤さん
私立、
秋葉原の電気街になぜか存在するこの学校。
だからと言って、生徒はオタクばかりという訳ではない。
他の学校と同様にイケメンも居るし、美少女も居るし、オタクに優しいギャルは居ない。
かく言う俺、南雲裕太(なぐもゆうた)もそんな
いわゆる陽キャと分類されたチャラついた奴らとは違い、陰キャな俺は今日も教室の一番後ろの席に座って授業を受けていた。
そして、慣れた動作でスマホのゲームを起動する。
――イヌ娘! プリティダーティー!!
授業中の比較的静寂とも言える空気の中、美少女の可愛らしい声が響いた。
俺は冷や汗をかきつつ視線を右隣に逸らす。
どうやらマナーモードにするのを忘れていたようだ。
このゲームは起動するとランダムなキャラがタイトルコールをするのだが、今の声は俺が好きなキャラ『シバイヌ・ダイアモンド』の声だった。
今聞くとは思わなかったけど。
直後、弾丸が飛んできた。
否、速度自体はライフルのソレと変わらないが、よく見たらチョークだ。
そして、真面目に授業を受けていた俺の左隣の席に座る
「な~ぐ~も~、私の魂の授業を聞かずにゲームとは随分楽しそうだな?」
俺の名を呼び、眉間にシワを寄せて偽りの笑顔を作っているこちらの女教師は
ツヤのある長い黒髪が綺麗な23歳の新任教師だ、ちなみに彼氏は居ない。
たった今、ガバガバなエイムによって俺の左隣の罪もない生徒の額を撃ち抜いた張本人でもある。
「あの、投げたチョークが東城君に当たりましたよ?」
俺が至極まっとうな指摘をすると、月永先生はカツカツとヒールを鳴らして俺の机の前に来た。
そして、机をパシンと片手で叩く。
「そんなことはどうでも良い! 話を逸らすな!」
どうでも良いと言われた東城は驚愕の表情でこっちを見ていた。
激突したチョークで額に点が付いて、インド人みたいになってしまっている。
月永先生は長い溜息を吐く。
「私は忙しいんだぞ? お前を叱っている暇なんてないんだ。新任の私はこの授業以外にもクソ上司――じゃなくて敬愛している先輩から雑用――もとい愛のこもった書類仕事を押し付けられてだな~」
言葉の端々から本音という名の愚痴が出かかっている月永先生に俺も反論した。
「すみません、。ですが、俺も忙しくて……『イヌ娘』、『アーグナイト』、『クラブル』、『ツイスト』その他諸々、ソシャゲのデイリーミッションという多くの業務を請け負っているんです、自己発注ですけど」
「それは自由にやってくれ、私の授業が終わった後でな」
「残業しろってことですか? できれば就業時間に済ませたいのですが」
月永先生は額に青筋を立てる。
せっかくの美人が台無しですよ?
「確かに、学生の仕事は勉強だとは言うが、授業を受けることを就業時間と定義している奴は初めて見たな。罰として『ツイスト』の新章のストーリーについての感想文を後ほど私に提出するように」
そう言うと、月永先生は再びカツカツとヒールを鳴らしながら教壇に戻って行った。
あんたもやってんのかよ、『ツイスト』。
俺はため息を吐くと、再びゲームを起動する。
授業が再開すると、俺の右隣の女生徒が俺の右腕の袖をクイクイと引っ張ってきた。
そして、ヒソヒソと申し訳なさそうに言う。
「あの……な、なんで、言わなかったの? ゲームの音を鳴らしちゃったのは私なのに……」
当然、授業中ゲーマーの歴戦の戦士である俺はスマホをマナーモードにし忘れるなんてヘマはしない。
彼女は
俺の右隣の席に座る女生徒だ。
綺麗な長い黒髪は目元を隠すくらいに伸びていて、素顔がよく見えない。
変なあだ名を付けられることもない、目立たない優等生な彼女だが……。
正直ソシャゲをやるなんて意外だった、しかも授業中に。
偶然、俺が起動したタイミングで佐藤さんもゲームを起動したのだろう。
そんな彼女に説明した。
「俺は一度も『俺が鳴らした』なんて言ってないし言われてない。単純に俺がゲームしてたのが見つかって怒られただけだろ、気にすんな」
恐らく、一番前から見ていた月永先生も佐藤さんが鳴らしたことは気が付いたはずだ。
彼女が気まずい思いをしなくて済むように、隣でいつもゲームをしている俺をスケープゴートにしたのだろう。
俺も上手くメェメェ鳴いて、ゲームの音を鳴らした犯人だと教室内の誰もが思っているはずだ。
東城もついでに犠牲になってしまったが……ごめんな、その格好で今話題のインド映画でも観に行ってくれ、最高だぞ。
「そ、それは……そうかもしれないけど……」
佐藤さんはなおも申し訳なさそうにうつむいてしまう。
やっぱり、責任を感じているのかもしれない。
そんな彼女に俺はゲーマーとしての至極まっとうな理論を述べる。
「――それに、『イヌ娘』好きに悪い奴はいないからな。推しの声も聞けたし、満足だ」
「ふふっ……なにそれ」
佐藤さんは長い髪の隙間からクスクスと可愛らしい笑顔を見せてくれた。
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