第32話

──────本部にて。


「お疲れ様でした。お帰りはどちらですか?」


 ポータルから出た二人はすぐに本部のエンジニアに声をかけられる。


 「トラスト区のDAクランってとこです、」


 先輩が小声で伝える。


「分かりました。少々ここでお待ち下さい。」


 なんで先輩が小声で伝えたのかはトラスト区が最弱都市であって周りに気付かれるのを防ぐためらしい。

 あとは俺の持っている結晶を奪われないようにするためでもある。


 やはりトラスト区の隊員はレベルが低い思われている。


「はい」


「じゃあ取り敢えず座ろうか、」


 と俺のことをソファーまで連れていく。

周りの視線が集まる。俺たちのことを見ているのだろう。先輩も少し周りを気にしているようだった。


「先輩、今日はありがとうございました。一緒にきてくれて」


 今日初めての感謝を伝える。すると先輩はこっちを見て、どういたしましてとだけ言って、話を変える。


「なあ フィルとリューさんってどんな関係なの?」


「ただの兄弟です。兄さんからしたら」


「そんなことは分かってる。お前からしたら?ただの目標ってだけなのか?」


 俺は常々兄さんはかっこいいだの憧れの存在だの言っているがその理由まで言ったことは無くて、初めてそんなことを聞かれて少しドキッとした。


「それは昔の話なんですけど、俺前からずっと人が怖くて、」


「知ってる」

話を遮ってくる。かなりこの話に食い気味だ。


「それで俺は兄さんのことも初めは突き放していたんです、それでも兄さんは俺のことを考えてくれて、それで母さんが死んじゃった時も、俺は兄さんのせいにしたのに、そんな俺の命を兄さんは救ってくれたんです。」


「やっぱ凄いなリューさんは」


「だから俺は兄さんみたいなどんな人でも救えるような人になりたいんです……でも今はそんな段階にもいないんですけどね…」


 俺は話しているうちに兄さんにはなれないんじゃないかって、悲しくなってきてしまう。

 

「そんなことはないよ、フィルは今日大勢の命の救っているんだ。」


「いやでもそれは先輩の、」


 なにか言おうとする俺を先輩は静止する。


「それは目の前にいた人間の話だ。あのポータルを俺たちが塞がなかったら、ポータルからモンスターが出てきて一般の人達が死ぬ。それをお前は防いだんだ。」


「別に俺がいなくても……」


 こう言う褒められた時にネガティブになってしまうなんて俺はどうしちまったんだろう、


「お前は自分のことを少しは褒めろよ!今日の俺はよくやったって!何を言おうとお前は今日頑張った!よく頑張ったんだよ!」


 先輩がいつもと違う俺を慰めてくれてる。

 こんないい人の前でまだ俺は、俺は、


「グスッ 頑張ったんだ俺、よくやったんだ俺!」


「そうだよよくやったんだよお前は、ポータルの準備が出来たみたいだ。もう泣くのはやめてかっこいい姿を仲間達に見せような」


「は、はい!」


 俺は涙を服で拭いた。


「転送開始します。転送開始します────」



────────第一章 任務遂行編完───────

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