アンラッキー7

はるノ

アンラッキー7

 7はラッキーナンバーだと誰が言った?

 およそ俺の人生中、7が絡んでいいことがあった試しは一度もない。俺にとっては不幸の数字だ。

 まず俺の誕生日に7は一つも入っていない。時間もだ。何なら出生体重、身長、頭囲に至るまですべて。おそらく7が入っていたなら無事に生まれて来れなかったに違いない。

 小学校で出席番号に7が入った年は散々だった。小2の時の担任はパワハラモラハラ婆でクラスの3分の1近くが不登校。俺も理不尽な言いがかりをつけられて給食抜かれた。小6の時の運動会は、それまで危険だからと止めていた組体操が体育会系校長の鶴の一声で復活、練習時から怪我人続出。俺も肩を脱臼した。

 中学は幸い組も番号も逃れたがまさかの高校受験、第一志望の学校の受験番号が317だった。案の定、試験当日大暴風雨。会場に向かう途中で大型トラックに泥水を盛大にぶっかけられ震えながら受験。落ちた。

 滑り止めの私立高校のクラスは成績順の変動制だったので必死で勉強した。上位クラスに常駐し順位も5位を下らないように。その甲斐あって大学は第一志望に現役合格。もちろん受験番号中に7はない。

 とにかく徹底的に7を回避しつづけて、今。

 俺はまあまあな職場に落ち着いて、美人の妻と可愛い子供もいる。今後も7にさえ関わらなければ、そこそこ安泰な人生を過ごせるだろう。

 俺は目の前の、7とナンバリングされた鉄の扉を見上げる。地上にあるどんな兵器での攻撃も歯が立たないといわれる堅固なシェルター。

 中にいるのは6人。このバカげた侵略戦争をおっぱじめた指導者とその取り巻き、下っ端の兵士なんざいくらでも畑から採ってくりゃいいとしか思っていない奴らだ。必ず勝てるはずだった戦争は泥沼、国際社会からもハブられて青息吐息。国内外に反政府テロリストがウヨウヨしてる。今や一日の殆どをシェルター内で過ごすという体たらくだ。

 異様に用心深い奴らが、俺みたいなアジア人を下働きに雇ったのは、よっぽど人がいなかったのか舐めくさってるのか。まあ両方だろうな。

 さ、仕事仕事。

「失礼します。食事をお持ちしました」

 セキュリティパネルに指を触れる。扉が開く。

 俺は愛想笑いを浮かべつつ、カートを押して中に入る。

 この瞬間、室内の人数は7人となった。


 ……臨時ニュースです。A国政府首脳が会議中に掴み合いとなり、大統領をはじめ4人が死亡、2人が重傷を負いました。中枢メンバーの殆どを失ったA国は大混乱に陥っており、国連は即時戦闘停止と国内安定化のための介入を宣言、各戦場からは既に撤退が始まっている模様です。繰り返します……

「お疲れさん」

 時差ボケでウトウトしていたところを上司に起こされた。

「現場の写真見たよ。よく骨折で済んだな」

「いや参りましたよ本当に。扉が閉まった瞬間から揉め出して、一気にナイフやら飛び道具やら……今度こそ死ぬかなって覚悟しました」

「ははは。知ってるか?お前、ネットのある界隈でニンジャって呼ばれてる。丸腰のヒョロガリなのに勝手にターゲットが自滅するからって」

「確かにある意味忍術かもしんないですね、俺にとっての7は。ヒョロガリは余計ですけど」

「とにかくよくやった。ゆっくり休んでくれ」

「ラジャ」

 上司が去った後、サイドテーブルにほうじ茶と練り切りが置いてあるのに気づいた。早速口に放り込む。美味い。

 忍術というより災厄だよなあ、俺にとっての7は。

 俺だけじゃなく周りも被害甚大なもんで、結構本気で悩んだりもしたんだよね。

 でも結果として小2の時の担任は前任校での悪行も全部バレて二度と教員出来なくなったし、小6の時の校長はマスコミにリークされて大騒ぎになって退職金返納したし、第一志望だった高校は部活動で不祥事連発して翌年から倍率ダダ下がったし。 

 要は、俺と7が出会うこと自体が滅亡フラグってこと。

 A国首脳の人数は把握してたけど、あのシェルターの部屋番が7だったのは意外だった。部屋一つしかないのに。多分ラッキーナンバー扱いだったんだな。俺みたいなヒョロガリアジア人が何をしでかすかなんて全くの想定外だろうし。実際なんもしてないしね俺。

 練り切りを平らげ、少しぬるくなったほうじ茶をごくりと飲む。

 うん、美味い。

 俺のコードネームは6+1。

 武器は「7」だ。


 

   


 

 

 

 

 

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