お嬢様は働かない① なまけものシリーズ
@sugayama_kouzo
第①話 悲劇の『全裸ヒゲダンス』
お嬢様は働かない。何故ならお嬢様は貴族階級であり、労働者ではないからだ。
労働者とはつまり下層民のことであり、最下層である僕のことである。
お嬢様と僕の身分差を、これ以上なく明確にするために、
あえて階級という言葉を使った次第だ。
さて、ここで問題なのは、この格差がいつまで経っても是正されないということだ。
「いい加減にしてくれ! もううんざりなんだよ!」
僕はとうとう我慢できなくなり、溜まりに溜まった不満をぶちまけた。
だが、お嬢様は全く堪えた様子がない。
それどころか、疲労のあまり床に倒れこんだ僕を、
哀れむような目つきで見下している。
「あらあら、あんた、何怒ってんの? まるで駄々っ子みたいね。」
「あんたの方から言ってきたことよ。『ここで働かせて下さい』って。」
「それを今更やめるなんて…………あーあ、恥ずかしいゴミクズね。」
お嬢様はそう言って、わざとらしく顔を手で覆った。
その小馬鹿にした態度を見て、ますます腹立たしさが増してくる。
「ふざけるなっ!!」
僕は怒りに任せて怒鳴ったが、それでもお嬢様は平然としていた。
「ふぅ~ん、そんなこと言っていいんだぁ。じゃあ、クビにするわよ。」
「そしたら、どこへでも勝手に行けばいいじゃない。」
「どうせ、行くあてもないんでしょ?」
「えっ!? あっ、はい……。」
「やっぱりねぇ。だったら大人しくしてなさいよ。まったく。」
「うぐっ……! は、はい……。すみません……。」
結局、また言いくるめられてしまった。
しかし、これで良かったのだ。
所詮、底辺労働階級に過ぎない僕には、
他に選択肢などないのだから。
「それじゃあ、あたしの車椅子を押しなさいよ。
中庭でピンクローズの香りを楽しみたいわ。」
お嬢様は、身体障害者ではない。
小柄で華奢な身体つきだが、柔軟かつ頑強な筋肉に覆われており、
アスリートも真っ青な身体能力を秘めている。
僕はお嬢様に軽く平手打ちをされただけで、
顎が外れて三日間、唯一の楽しみである
三度の飯が喉に通らなくなったことさえある。
遺伝子学的に分析しても、
やはり彼女は生粋の上級国民であり強者なのである。
お嬢様が車椅子に乗るのは、ただ単に歩くのが面倒くさいからである。
「わかりました。お嬢様。」
僕は言われた通り、お嬢様の後ろに回り込んで車椅子を押し始めた。
「もっと早く押しなさいよ。ノロマね。」
お嬢様の罵倒にも慣れてきたものだ。
この程度の暴言は日常茶飯事なので、いちいち気にしていては身が持たない。
お嬢様はホワイトエルボーグラブと
ホワイトサイハイソックス以外は身に着けておらず、
生まれたままの姿で威風堂々とした態度である。
お嬢様はむしろ、裸体を晒すことによって、より一層の気品を醸し出しているのだ。
お嬢様の肉体美に心を奪われそうになる自分を必死に抑えながら、
僕は無心で車椅子を押し続けた。
お嬢様の凶悪な男性器が音もなく妖しく揺らめいている。
やがて、中庭へと辿り着く。
鮮烈で甘い香りのピンクローズが咲き誇っており、手入れが行き届いている。
お嬢様のお気に入りである
「遺伝子組み換えの、ムシケラひとつ寄り付かないピンクローズ」。
植物学者と遺伝子学者を脅して、無理に新たな品種を作らせたそうだ。
そのピンクローズのトゲには甘い猛毒が含まれており、
すでに3人の専属庭師が命を落としている。
そのせいで僕がピンクローズの世話までさせられるハメになっているのだ。
僕が死なずに済んでいるのは、極端に慎重で臆病な性格のせいかもしれない。
世の中、何が幸いするかわからないものだ。
「ふぅ~ん、いい香りね。あんたもそう思うでしょう?」
「はい、とても良い匂いです。」
「ふんっ、あんたなんかにわかるわけがないけど。」
お嬢様に鼻で笑われたが、僕は怒らない。
お嬢様にとって、僕は人間以下の家畜であり、ゴミクズなのだ。
「お嬢様、お飲み物をお持ちしました。」
「ありがとう。そこに置いてちょうだい。」
お嬢様は僕から紅茶を受け取ると、優雅な仕草で飲み干した。
「うん、美味しい。あんたも少しはマシになったわね。」
「あ……、ありがとうございます。」
「だけど、まだまだね。60度を超えたことだけは許せないわ。」
「あんたを120度のサウナに240分間閉じ込めてやりたい、そんな気分ね。」
「申し訳ありません!」僕は慌てて頭を下げた。
「そうね、じゃあ罰ゲームよ。すっぽんぽんでヒゲダンスを踊りなさい。」
「拒否したら硫酸のプールで泳いでもらおうかしら。」
お嬢様の命令に逆らえるはずがなかった。
僕は言われるままに服を脱ぎ捨てると、 全裸のまま両手両足を大きく広げ、
腰を振りながらヒゲダンスを始めた。
こんな屈辱的なことをするなんて……。
死にたい……。
あまりの羞恥心に顔から火が出そうだ。
「ぷっ、あははっ! あはははっ! あーっはっは!
バカじゃないの? あーっはっはっはっは! 」
つづく
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