魔法がはびこる世界なのに魔力無しで諦めてたら、どうやら陰陽師の素質があったらしい

ライト

プロローグ

 ひゅう、ひゅるり。賑やかな都市にそぐわぬ、冷たくて不穏な風が吹く。右を見れば魔法によって光を灯されたランタンが、左を見ればひょこりと揺れる耳を生やした獣人が。そんな、魔法に支配された世界の中に潜む、深淵しんえんが如く闇。モンスターでも、魔王の呪いではない。ずっと、ずぅっと昔から積み上げられてきた人々の思念。恨み。辛み。妬み。


 魔法という万能に近いモノがあるからこそ、人々は競いたがる。己が一番だ、彼奴には負けたくない。代々魔力に富まれた王族が絶対だ。力を持たぬ者はしいたげられるとまではいかずとも、下に見られるのは事実である。この世界は、魔法の実力が全てに有無を言わせるのだ。魔法が優れている者は良い、将来有望だと持て囃され、どこぞの偉い王様とやらの目にも入りやすい。しかし、魔法の優れていない者はどうだろうか。魔法学校では劣等生だと笑われ、実技が上手く出来なければ教師に怒られ。終いにはろくな職に就けず、ギルドの冒険者によって狩られたモンスターの後処理に回されたりもする。──モンスターの後処理とは、必要な素材を全部むしり取られたモンスター達を、火にべたりそこらの森に捨てにいく仕事である。腐臭が凄い上に、見るも無惨なモンスターの姿を毎日見せられる仕事は、当然人気の無い、誰もやりたがらない職業である──


 そんな仕事をやらされている存在がいるからこそ、この世界には数えきれない程の思念が溜まっている。長年の歴史は、決して消し去ることができないものなのだ。モンスター原因では無い謎の変死が起こるのも、その思念のせいである。


 それを祓う存在が居る、ということを知っているのは、たった数人。魔法界のトップと呼ばれる存在と、祓う当本人達。思念を祓える能力は、人生の途中で芽生えることはない。生まれながらの、天性の才能。ここ百数年、新たな祓い人──陰陽師と呼ばれる──は、生まれていない。世界に知られるべきその存在は、多くの人の前に出ることを嫌っている為に、世間に露出することがないのだ。

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