第二部 全ての始まり
お兄ちゃんと私⑴
好きな人がいる。
それは、1つ年上のお兄ちゃん。
気がついたら私は、お兄ちゃんに恋をしていた。
恋って不思議。
お兄ちゃんのことを考えるだけで心がフワフワして、近づくだけで胸がドキドキする。
「(お兄ちゃんに私を好きになってもらいたいな)」
お兄ちゃんに私を好きになって欲しくて、もっと私を見て欲しくって、気を引きたくって、私はお兄ちゃんをからかったりした。
「(少しは意識してくれたかな?)」
ねぇ、お兄ちゃん。もっと私でドキドキしてよ。
もっと私でいっぱいになってよ。
「大好きだよ、お兄ちゃん」
*
「あれ? お母さん?」
「あら、いすず。おかえりなさい」
「ただいま?」
これは、お兄ちゃんと家族になる数ヶ月前の話。珍しくお母さんが家にいた。
「(お母さん、仕事が忙しくて当分帰って来れないっていったのにどうしたんだろう?)」
「お母さんが家に居るなんて珍しいね。どうしたの?」
不思議に思った私はお母さんに聞くと、少し顔を固くさせ、不安そうな顔をするお母さん。その様子を見て、何かあったのだと察した。
「いすず、大事な話があるの。話を聞いてくれない?」
「う、うん」
お母さんに促されるまま、私はお母さんの前にあるイスに座った。
ドキドキと胸が高鳴る。
「(なんの話なんだろう?)」
お母さんは少し経ってから、口を開いた。
「お母さん、実は再婚しようと思ってるの」
「(えっ!?)」
お母さんの口から出た言葉に、私は驚いてしまった。
まさか、お母さんの口から"再婚"という言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
「(お母さんずっと仕事一筋で、再婚しないって言ってたから、びっくりしちゃった)」
お母さんの発言に驚いたものの、私はすぐに気になっていたことを聞いた。
「お母さんの再婚したい人ってどんな人なの?」
「えっ?」
「だって気になるよ。どんな人がお母さんを射止めたのかなって!」
するとお母さんは、安心したように笑った。
「……お母さんより2つ年上の人でね、仕事関係で出会ったの。とっても優しい人よ」
そう言った時のお母さんの顔は、とても幸せそうな顔をしていた。
「……そっか、よかったねお母さん」
「いすず……」
「お母さんが幸せそうなら、私は大歓迎だよ」
「いすず、あなたって子は! うぅ」
「もう、お母さん。泣かないでよ」
お母さんはボロボロと泣き出してしまい、私は慌ててお母さんを慰めた。きっとお母さんは、私に話すまで不安だったのだろう。
「ありがとういすず、本当にありがとう!」
「ふふっ、どういたしまして!」
お母さんの背中をさすりながら、私はお母さんに笑顔を向けた。
「そういえば、お母さん。お母さんの再婚相手は、私のことを知ってるの?」
「えぇ、知ってるわ。プロポーズをされた日に打ち明けたの。彼は驚いてたけど、娘ができるって喜んでいたわ」
「そうなんだ」
「そうよ。あっそういえば彼にも子どもがいてね、あなたより一つ年上の息子さんがいるの」
その言葉を聞いた瞬間、私の笑顔は張り付いた。
「へっへぇ、そうなんだ」
「よかったわねいすず、お兄ちゃんができて」
「う、うん」
お母さんは嬉しそうに笑ってるけど、私は気が気でじゃなかった。
*
それからというもの、私はお母さんの再婚相手の健二さんとお母さんの3人で何度か食事に行った。
お母さんのいう通り健二さんはとても優しい人で、この人にならお母さんを任せてもいい。そう思ったくらいだ。
「健二さん、今日はパスタが食べたいです!」
「はは、ならパスタを食べに行こうか」
「よかったわね、いすず」
「うん!」
食事を重ねるうちに健二さんとも仲良くなったんだけど……
「ねぇ、健二さん」
「なんだい、いすずちゃん」
「今日も息子さんは来ないの?」
健二さんは、あーっといいながらポリポリと頬をかいた。
「ごめんね。今日も息子は用事があって来れないんだ」
申し訳なさそうな顔を浮かべる健二さん。
「次は来れると思うから、来週は空いてるって言ってたから! だから、どうか息子と会ってやってほしいんだ!」
「....,..そうなんですね! 息子さんと会えるのを楽しみにしてます」
「いすずちゃん! ありがとう!」
笑顔でそういったけど、内心では不安な気持ちが渦巻いていた。
*
「(うーん、どうなんだろうな)」
食事に行った後、家に帰ってくると私は自分の部屋に行き、ベッドにそのままダイブした。
柔らかな布団に体を包まれながら、今日のことを考えていた。
「今日も息子さんは来ないの?」
「ごめんね。今日も息子は用事があって来れないんだ」
「次は来れると思うから、来週は空いてるって言ってたから! だからこそ、どうか息子と会ってやってほしいんだ!」
そう健二さんは毎回のように言っていた。でも、息子さんが来ることは一回もなかった。
だから息子さんには、一回も会ったことはない。写真では見たんだけどね。
黒髪で、前髪は目元まで隠れている。そのせいか顔を伺うことができない。
写真で見た感じ、とっても大人しそうな印象を受けた。
「なんで食事会に一回も来れないんだろう。忙しいのはしょうがないと思うけどさ」
「(けど、こう何回も食事会に来れないことってあるのかな?)」
考えられるのは、本当に用事があったパターン。
そしてもう一つは、息子さんが再婚をよく思っていないパターンだ。
「うーん、本当はどっちなんだろう?」
枕を横に抱きしめながら、私はベッドの上をゴロゴロと寝転がった。
私は不安で不安でたまらなかった。
お母さんから聞いた、再婚相手に息子がいる話。それは私にとって一番の不安要素だった。
「(はぁ、厄介ごとにならないといいけど)」
これは本当のことだからしょうがないけど、私は一般人とはかけ離れた今をときめく大人気アイドルだ。
「(アイドルだけではなく、女優までこなせる超超すごいアイドル)」
……なんだけど、大人気アイドルだからこそ、厄介ごとを持ち込めないのだ。
「もし、お兄ちゃんができたことが厄介ごとの原因になったらどうしよう」
息子さんが食事会に来てくれていたら、どんな人か分かって安心できたんだけど。このまま来ないんじゃ、不安で仕方がない。うーん、うーんと私は考え続け、
「あっそうだ!」
あることを閃いたのだった。
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