お祝い⑵



「お兄ちゃんありがとう!」


 いすずのデビュー5周年記念にケーキを買ってきたが、いすずはすごく喜んでくれた。


「せっかくお兄ちゃんが買ってきてくれたんだし、食べないと♪」

「ちょうど3時の時間だしな」

「うん!」


 いすずはケーキの入った箱を持ち、リビングに向かった。

 そんないすずのあとを追う。


「モンブラン♪ モンブラン♪」


 いすずはというと、嬉しそうにテーブルの上に箱を置き、箱を開け、中身を見ている。


「わぁ、美味しそうなモンブラン!」


 中には大きな栗が乗ったモンブランが入っていて、とても綺麗な見た目をしていた。


 しかし、いすずは不思議そうな顔をした。


「あれ? でも一つしか入ってないよ? お兄ちゃん食べないの?」

「あぁ、実は買いに行ったらちょうど一個しか売ってなくてさ」


 そういうと、いすずは驚いた顔をした。


「えっじゃあ、お兄ちゃんが食べなよ! 私はいいからさ」

「何いってるんだ。今日はいすずのお祝いだって言っただろ。気にせず食べてくれ」



 しかしいすずは、モンブランを見ながらうーんっと唸っている。


「お兄ちゃんと食べたいし、うーん」

「いすず。俺のことは気にせず……」

「あっそうだ!」


 何かを思いついたのか、慌て台所に向かって何かを持ってきた。


 不思議に思っていると、いすずは持ってきたフォークを渡してきた。


「はい、これ」

「えっ?」

「半分こしようよ」

「でも、いすずのために買ってきたのに……」

「お兄ちゃんだって甘いもの好きでしょ? それに1人で食べるより、私は2人で食べたほうが嬉しいって思うんだ」

「……」

「えへへ、私のわがままだけどさ」


 俺はいすずの気遣いに首を横に振った。


「いや、そんなことないよ。いすずがいいなら、半分こで食べようか」

「うん!」


 ということで、いすずとモンブランを半分こで食べることになった。

 2人で向かい合って座り、モンブランをナイフで半分にする。


「せっかくだから、紅茶飲もうよ!」

「そうだな。だったらとっておきの紅茶を出すか!」

「うん!」


 紅茶をティーカップに淹れて、2人でモンブランを食べる。モンブランはとても濃厚で、甘くて美味しかった。


「あぁ、幸せぇ。こんなに美味しいモンブラン食べたことないよ」

「そうだな。うま過ぎてほっぺがとろける」

「もう、お兄ちゃんったら。お店の場所教えてよ! また買いに行きたいからさ」

「だったら、2人で行くか。しっかり変装してさ」

「ふふふ、そうだね」


 2人でモンブランの感想を言いながら食べる。とても幸せな時間だった。こういう当たり前の時間が幸せだなってあらためて思った。


「お兄ちゃん」

「ん?」

「あらためてありがとう。すごく嬉しかったよ」


 いすずの真っ直ぐな「ありがとう」を受けて、俺はいすずに笑みを返した。


「(よかった)」


おしまい




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