第36話 バレてしまった

 ある日の帰り道、いつものように帰っていると家の前に車が停まっていた。車には見覚えがあり、どうやらいすずの送迎用の車だった。

 ちょうど、いすずが帰ってきたみたいだ。


「おかえりいすず」

「ただいま、お兄ちゃん!」


 声をかけると、いすずはキラキラな笑顔を向けてくれた。


「お兄ちゃんも今帰ってきたの?」

「あぁ。ってかいすず、この時間に帰ってくるの珍しいな」

「今日は仕事は休みで、学校があったんだ。だから、早く帰ってこれたんだよ」

「そうだったのか。なら今日はいすずもいることだし、夕飯は気合いを入れないとな」

「じゃあ、じゃあ、オムライスがいいな! ねっいいでしょ、お兄ちゃん!」

「そうだな、久しぶりにオムライスもいいかもしれないな」

「やったー!!」

「わっこら」

「えへへ、お兄ちゃん。妹に抱きしめられて嬉しいでしょ?」

「はいはい、嬉しいです」

「全然、気持ちがこもってない!!」


 いすずは俺に抱きつきながら、文句をいっている。こういうやりとりが久しぶりだったので、なんだか嬉しくて口角が上がってしまう。

 やっぱりいいな、家族って。


 なんて考えていた。


「お前、いすずちゃんから離れろ!!」

「えっ?」


 その時、第三者の声がした。

 声のした方向を見ると、そこにはフードを被った見知らぬ男がいた。

 なんだか危ない気配を感じて、いすずを庇うように立つ。


「いすずちゃん! そんな男から離れるんだ! ボクが助けに来たよ!!」

「えっと、どちら様ですか?」

「ボクだよ、ボク!」


 男がフードをとった。フードをとると、痩せ型の男の顔が現れた。


「あっ! アシスタントさん」

「いすずちゃん、ボクのこと覚えていてくれたんだね!」

「いすず、知り合いか?」

「う、うん、前に写真集撮ってくれたカメラマンのアシスタントさんなの」

「まじか」

「でもどうしてうちに?」


 答えは一つだろう。

 どうやらいすずを盗撮していたのは、カメラマンのアシスタントらしい。

 いすずと小声で話をしていると、男はキッと俺を睨みつけてきた。


「お前、いすずちゃんのなんなんだよ!」

「お、俺はいすずの兄で……」

「ボクが調べた限り、いすずちゃんには兄はいないぞ!!」

「(調べられたか)」


 男はどんどん怒り狂ったように近寄ってきた。


「いすず、家に入って警察を呼んでくれ」

「でも!」

「俺はなんとかコイツを食い止めるから」

「そ、そんな」

「大丈夫だから、な」


 頭を撫でてやると、いすずはこくんと小さく頷いた。そして家の扉を開けると、家の中に入っていった。


「いすずちゃん! どこいくの、いすずちゃん!」

「そっちに行くな! 家には近づけさせないぞ!」

「お前のせいでいすずちゃんが、家の中に入っちゃったじゃないか! どうしてくれるんだよ!!」


 男に強く胸ぐらを掴まれる。男の眼は血走っていて、とても危ない。

 俺は男の胸ぐらを掴み返すと、壁に押し当てた。


「ぐっ」

「お前自分が何やってるのか分かっているのか!! お前のせいでいすずは、怖い思いをしていたんだよ!!」

「ボ、ボクは怖がらせてない!!」

「っ!」



 いきなり男に足をかけられ、地面に倒れてしまう。慌てて起きあがろうとしたが、男が上に跨ってきた。


「お前なんかが、いすずちゃんに近づくな!!」


 男は狂ったように俺の前髪を強く掴み、顔を殴ってきた。その勢いでメガネが外れ、頬が熱い。

 俺は男の腕を掴み、殴られるのを止めた。


「くっ離せよ!!」


 男はジタバタ暴れていたが、俺は必死に男の手を押さえた。


「(警察が来るまでの辛抱だ。なんとかこいつを押さえ込まないと!!)」


 それから数十分、男と格闘した。

 気がつけばサイレンの音が聞こえてきた。

 パトカーが到着すると、中から警察官たちが降りてきて、男を取り押さえる。


「警察だ! 大人しくしろ!!」

「離せ! ボクはいすずちゃんと、幸せになるんだ!!」


 男は暴れていたが警察官たちに連れていかれた。最後までいすずの名前を叫んでいたがな。


「ふぅ、やれやれ」


 なんとか男を捕まえることができた。よかった。なんて考えていると、玄関の扉が開いた。


「お兄ちゃん!!」

「いす……おわっ!?」


 勢いよくいすずが飛び出してきて、タックルをかましてきた。おかげでそのまま倒れてしまい、いすずに押し倒される形だった。


「よかった、お兄ちゃんが無事で本当によかった!」


 ポロポロといすずは涙を流しているけど、すでにいすずの目は赤い。


「いすず、泣いていたのか?」

「だって、だって」

「……心配してくれて、ありがとな」


 頭を撫でてやると、さらに泣き出すいすず。よほど俺のことを心配してくれたみたいだ。いすずに言ったら怒られそうだけど、それがすごく嬉しかった。


「うっうっ」

「ほらほら、泣かない。警察の人が戻ってくるぞ」

「わ、わかったよ」


 いすずは目をこすりながら、俺の上から退いた。俺はいすずが退いたので、そのまま立ち上がる。

 涙を拭いたいすずが、こちらを見てきたのだが……


「えっ」


 なぜか、驚いた顔をしている。どうしたのだろうか?


「お、お兄ちゃんその髪って」

「髪?」

「取れてるけど」

「えっ?」


 嫌な予感がした。

 顔から血の気が抜けていくのが分かる。ゆっくり髪に触れてみると、何かが取れた。

 それは"黒髪のウィッグ"だった。

 どうやら押し倒された反動などで、とれてしまったようだ。


「あっいやその……」

「ってかよく見たらその顔に見覚えがあるんだけど」

「……」


 慌ててウィッグをかぶり、落ちたメガネをつけた。


「ほら、警察官が呼んでるぞ! いす……」

「もしかして、真上太陽さん!?」


 俺は一瞬固まった。


「だ、だれだそれ!」

「嘘つかないでよ! その顔、真上太陽さんじゃない! えっ? どういうこと??」


 混乱するいすず。

 誤魔化そうと思ったけど、いすずの態度を見て俺はもう誤魔化せないのだと悟った。


「そうだよ」

「え」

「……俺が、真上太陽だよ」


 くそ、バレたくなかったんだけどな。




ーーーーーー


ここまで読んでくださりありがとうございます!


《表では清純派アイドル、俺の前では生意気な義妹に×××する話》の第一部完結となります!


 コメントや応援、評価などありがとうございました!


第二部も引き続き読んでいただけると嬉しいです!


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