第34話 衝撃の写真

「なんだ、これ」


 俺は落とした写真を見て驚いた。

 だって全ての写真に、いすずが写っていたからだ


「は? 一体どういうことだよ!」


 俺は全ての写真を確認した。

 とてつもなく嫌な予感がした。


「これも、これも、これぜんぶそうだ」


 どの写真も見れば見るほど、全てが隠し撮りだということがわかる。どの写真もいすずの目線が合っていなかった。


 こういう現状を、俺は見たことがあった。


「まさか、いすず。ストーカーの被害に遭ってるんじゃ」


 その線が正しいような気がした。だって、わざわざこんなことをする人なんていると思わないからだ。


 もしかしてだけど、いすずが最近うちに帰らなかった理由とコレが関係しているのか?


「とりあえず、いすずに事情を聞かないと」


 俺は急いでいすずに電話をした。するとちょうど休憩時間だったのか、いすずは電話に出てくれた。


「もしもし、お兄ちゃんどうしたの?」

「なぁ、いすず。今日うちで話せないか?」

「ご、ごめん。私仕事が……」


 いつものように、会話を終わらせようとするいすず。

 だが、今日は引き下がらなかった。


「うちに封筒が届いたんだ。分厚いやつ」

「っ!」

「封筒の封が甘くてさ、中身が全部出ちゃって。見ちゃったんだ」

「そ、そんな」


 いすずの声はとても焦っていた。俺にバレたのが嫌だったのかもしれない。


「最近家に帰らなかった理由ってコレが原因か?」

「ぅ」

「帰ったら、その話をキッチリしてくれないか」


 俺がそういうと、いすずは少し経ってから小さい声で「わかった」と話した。


「あとで、帰る時間連絡するね」

「おぅ」

「じゃぁ、仕事だから」


 プチンっと電話が切れる。

 いすずの声はとても沈んでいた。

 けど、兄としてここはしっかり聞かなくてはならない。もし、いすずになにかあったら嫌だからだ。


 それから数時間後、いすずが家に帰ってきた。とても疲れた顔をしている。どちらかというと仕事で疲れたというより、何か別のことで疲れたような顔をしていたのだ。


「ただいま」

「おかえり、いすず」

「家、帰ってきたの久しぶりかも」


 いすずはニコッと笑ってそういってるけど、笑顔が引きつっている。


「話さないとダメ?」

「ダメだ」

「うぅ」


 とりあえずいすずをリビングにあるソファーの上に座らせると、お茶を持ってきて渡した。


「……あの写真は一体なんなんだ?」

「……」

「話しにくいなら、また後でも」

「大丈夫。もうバレてるだろうし」


 いすずはカップを持ちながら、俺に顔を向けた。その目には迷いがあったけど、決心したのかゆっくりと話し出した。


「実は数週間前、お兄ちゃんの期末テストが終わったくらいに家に手紙が来たの」

「手紙?」

「そう、中身を開けたらビックリ。"いすずちゃんの家に来たよ"って文字と一緒に何枚か隠し撮りした写真が入っていて……あっこれはやばいやつだなって思ったの。前にも同じようなことがあったからね」


 いすずはカップをテーブルに置くと、手を組んだり離したりした。


「それからも頻繁に封筒が来るから、お兄ちゃんにバレないように回収して。でも、このまま家に居たらお兄ちゃんに迷惑かかるかもしれないって思って、家を出たの」

「そうだったのか。俺は迷惑なんてかけられて……」

「ううん、きっと迷惑をかける。だって家にまで来ちゃう人だよ? もし私とお兄ちゃんの関係が知られたらどうなるか」

「っ」


 たしかにいすずの言う通りだ。もし俺たちの関係、血の繋がりがないことがバレてしまったらどうなるか分からない。


「本当はね。さっさと犯人を見つけて終わらせようと思ったんだけど、なかなか犯人が見つからなくて……」

「いすず、お前そんな危険なことを!」

「だって、誰にも私のせいで迷惑かけたくなかったし。1人で解決できたらいいなって思っただけ。でも、1人で解決する前にバレちゃったね」

「いすず……」

「バレちゃったけど、私は1人で解決するから。お兄ちゃんには、絶対に迷惑かけないから。だから、気にしないでいてくれるといいな」


 いすずはスッとソファーから立ち上がると、俺の目を見てニコッと笑った。


「星夜いすずは、強いから! 大丈夫だから!」


 そういっていすずは俺を安心させようとしていた。けれど、いすずの手はかすかに震えているのが分かった。

 無理をしているんだと、怖いんだということが分かった。


 それを見て俺は、


「大丈夫なわけないだろ!!」

「お兄ちゃん?」

「無理してるのバレバレなんだよ!!」


 たまらず声を上げ、いすずのことを抱きしめていた。このまま離したら、またいすずが無理をすると思ったからだ。ギュッと強く抱きしめ、いすずが逃げないように捕まえた。


「いすず気づいてないかもしれないけど、最近疲れた顔をしていたぞ」

「う、うそ」

「嘘じゃない、鈴さんも心配していたんだからな」

「えっお母さんが?」

「あぁ、だから強がるのはよせ。1人で解決しようとするな。一緒に解決してやるから」

「っ! で、でも、一般人のお兄ちゃんに迷惑かけるわけには」

「迷惑かけていいんだよ。たしかに俺たちは血の繋がりはない。でも、兄と妹なんだから、迷惑をたくさんかけていいんだ。気にするな」

「……ずるい、ずるいよお兄ちゃん」


 いすずはギュッと俺にしがみつくと、顔を胸に推し当ててきた。


「本当は、怖かったの。1人で解決するのは」

「あぁ」

「でも、お兄ちゃんも一緒に解決してくれるんだよね?」

「まかせろ、お兄ちゃんも手伝ってやるよ」

「ありがとうお兄ちゃん」

「いえいえ」

「……今だけはお兄ちゃんの妹でよかったなって思ったよ」

「ん? なんか言ったか?」

「なんでもない!」


 いすずはそういうと、嬉しそうに笑った。その顔はさっきのぎこちない顔と違っていた。

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