第20話 えっ俺が敵役?!

 委員長と話しながら歩いていたら、あっという間に会場につくことができた。

 会場には小さい子から大人まで、幅広い年齢の人たちが集まっている。


「始まるの楽しみだな!」

「だね、ワクワクしちゃうよ」


 委員長と並んで、始まるのを待つ。

 楽しみすぎて、ドキドキが止まらない!


 それから10分が経過した。


「始まらないね」

「だな」


 なぜか着ぐるみショーは、なかなか始まらなかった。


「始まらないなー」

「開始が13時だけど、10分経ってるね」

「なんか舞台の方が騒がしい気がするし……ちょっくら見てくるか」

「わ、私も行くよ!」


 ということで、俺たちは舞台の近くへと向かった。舞台に近づくと、大人たちの焦った声が聞こえてきた。


「ど、どうしよう!? 本番過ぎちゃってるよ!!」

「早くいい人見つけないと、まずいって!!」

「どうしてこんな時に限って、ケンカしちゃうのよ〜」


「な、なんか大変そうだね」

「だな、なんかあったのかな?」


 不思議に思いながら委員長とこっそり見ていると、スタッフの1人と目があった。

 すると、スタッフの1人が駆け寄ってきた。

 嫌な予感しかしない。


「君!! お願いがあるんだけど!!」

「お断りします!」 

「えぇ!? ちょっ、話だけでも!!」

「日ノ出くん、困っているみたいだよ?」

「つい反射的に答えてしまった……えっと、それで話ってなんですか?」


 そう聞くとスタッフの人は、「待っていました!」と言わんばかりに話し始めた。


「実はね、今日ここで着ぐるみショーをやるんだけど、敵役の2人がショーの前に喧嘩をしちゃって……」


 それで1人が「俺はもう帰る!」といって帰ったらしい。


「どうしても脚本上、敵役があと1人必要なのよ!」

「それなら、スタッフの人が出ればいいんじゃないんですか?」

「そうしたいのは、やまやまなんだけど……敵役の人に合わせて服を作ったから同じ体格の人が居なくてね」


 しょんぼりと落ち込むスタッフさん。しかし、キランと目が光ったかと思うと、俺の手を握りしめてきた。


「そんな時に、現れたのが君なのよ! あの子と体格も同じだし、君し居ない! お願いよ、ステージに出てくれないかしら! この1回公演だけでいいから!」


 まさか、こんな展開になるなんて思わなかった。


「ひ、日ノ出くんどうする?」

「うーん」


 本当は出たくない……けど、楽しみにしているお客さんたちの顔を見ちゃったしな。


「わかりました、ショーに出ます」

「ほ、本当!?」

「えぇ、台本を見せていただけませんか?」


 俺は頷くと、スタッフの人と共にテントへ入る。


「あっ委員長。ということになったんで、客席から俺のこと見守っていてくれないか?」

「う、うん! 客席から見守ってるね! 頑張ってね」

「あぁ!」


 委員長に応援され、俺はテントの中に入っていった。テントの中に入ると、まず敵役の服を着てみた。体格が同じだったらしく、すんなり着ることができた。


「お、思わず君に頼んじゃったけど大丈夫かしら?」

「まぁ、なんとかやってみます。5分だけ時間をいただけませんか? それまでに覚えるので」

「えぇ、だったらアナウンスをしないとね」


 俺は必死に動きや、セリフを頭の中に詰め込んだ。楽しみにしている人たちを、がっかりさせたくなかったからだ。


 「(俺は敵役だ、キラとルリと敵対している。いわばキラ☆ルリは俺の敵だ)」


 それから5分が経過した。


「5分経ったけど、大丈夫?」

「はい、いけます」

「それじゃあ、よろしく頼むわね」


 俺が頷くと、近くにいたショーを進行するお姉さんが舞台に上がった。


「お待たせしました! それでは、キラ☆ルリのショーを始めます!」


 俺は頬を叩くと、舞台へと向かったのだった。


*委員長サイド


「あっ委員長。ということになったんで、客席から俺のこと見守っていてくれないか?」


 そういって日ノ出くんは、テントの中に入っていってしまった。


「(だ、大丈夫かな)」


 私は待っていることしかできなかったので、不安で仕方なかった。


 けど、日ノ出くんは「私に見守って欲しい」って言っていた。だったら、私は信じなきゃ。


「(鈴木 二菜(すずき にな)信じるのよ! 信じて、日ノ出くんを待つの!)」


 5分後、舞台の上にショーを進行するお姉さんが上がってきた。


「お待たせしました! それでは、キラ☆ルリのショーを始めます!」


 お姉様が声を上げると、客席がわっと沸いた。みんなショーを待ち望んでいたからだ。


 すると舞台の上に、目出し帽を被った全身白ずくめの男たちが上がってきた。どっちも顔は見えないけど、体格で日ノ出くんがどっちなのか分かった。


「キキっ今日も悪さをしてやるぜ!」

「なら、町中のゴミを散らかしてやろうぜ!」

「おぅ、いいな!


「わぁ!」


 私は驚いてしまった。

 なぜなら、日ノ出くんの演技がとっても上手かったからだ。


 セリフや動きにぎこちなさは感じられず、まるでアニメの敵役が目の前にいるかのようだった。


「(うまくは言えないけど)」


 1人だけ上手いのではなく、周りを引き立てるようなそんな演技をしていたのだ。


 お客さんたちも日ノ出くんに魅了されているのか、息を飲んで舞台に見入っていた。


「(すごい、日ノ出くんってこんなに演技が上手だったんだ!)」


 私もその1人だった。すっかり演技に見惚れ、釘づけになっている。


 気がつけばあっという間に舞台は終わった。


「ありがとうございました!」


 お姉さんがお客さんに向かって挨拶をすると、お客さんたちはワッと歓声を上げた。


「すごい、今日の着ぐるみショー凄くないか!」

「なんか、分かんなかったけど凄かった!」


「(わ、わかります! 凄かったですよね!)」


 けど、なんでだろう。私は日ノ出くんの演技を見て思った。


「(なんだか既視感がある気がするんだけど、どうしてだろう?)」


*いすずサイド


 お客さんに紛れながらお兄ちゃんたちを見張っていると、なぜかお兄ちゃんたちは舞台の横にあるテントへ向かっていった。


「(どうしたんだろう?)」


 するとお兄ちゃんだけがテントに入り、委員長だけが客席に戻ってきた。


「(なんかあったのかな?)」


 そう思っていると5分後、ショーが始まった。


「お待たせしました! それでは、キラ☆ルリのショーを始めます!」


 進行役のお姉さんがそういうと、舞台に敵役の2人が現れた。


「キキっ今日も悪さをしてやるぜ!」

「なら、町中のゴミを散らかしてやろうぜ!」

「おぅ、いいな!」


 全身白ずくめの敵役。その1人は聞き覚えのある声をしていた。


「(嘘でしょ?! この声お兄ちゃん!!)」


 声を聞いた瞬間分かった。体格も同じだし……まさか、お兄ちゃんがショーに出るなんて思わなかった。私は驚いてしまった。


「(それどころか……)」


 まさか、お兄ちゃんの演技がこんなにも上手いだなんて思わなかった。1人だけ群を抜いて上手い、けど周りの魅力を引き立たせるようなそんな演技をしていたのだ。


 客席が息を呑むのが分かる。お兄ちゃんの演技に魅入っていたのだ。


「(一体、どういうことなの?)」


 どうして、お兄ちゃんはこんなに演技が上手いんだろう。

 「(というか、私よりも上手いと思う)」


 そしてなぜだか、私はお兄ちゃんの演技をどこかで見たことがあった……ような気がする。


「(うぅ、どこでだろう。喉まで出かかっているんだけど)」


 けど、結局思い出すことはできなかった。


「(きっと気のせいよね)」


 けど、なんでお兄ちゃんがこんなに演技が上手いのか、帰ったら聞かないと!


 そう私は、決意したのだった。

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