煙草と花束

ましろ。

 煙を堕とす


暗い、けれど妙な明るさに包まれている街で

ガヤガヤとした喧騒の中僕の中だけ時間がまるで止まったかのように

しかし確実に時は進んでいた


27歳会社員、平松慎二ひらまつしんじ

幼い頃や学生の頃はそれなりに夢や目標があった気がする。

時間が経つにつれてそれがなんだったかすらも思い出せず、あの楽しかった時間たちはまるで他の誰かの物語なのではないかと感じる


食べて寝て仕事をする

生きるには必要なこと、何者かになれる、そう思っていたはずなのに何者にもなれないのだと気がついてしまったのはいつだったのだろうか。


多分、最初は悔しかった、なんとかしようともがいた事もあったのかもしれない


今となっては社会の歯車として、いや、歯車にもなれているのか疑問だがそんなことにすらなんとも感じず毎日が過ぎていく


 暗い

 五月蝿い

 汚れている


輝いた顔で街を行き交う人々

淡々と日々をこなす人々


いつから、どこから、なぜ、こんな違いが生まれてしまったのか。


手すりによりかかり、

薄汚れた空を仰ぎ煙をふかす


春先の生ぬるい風に流される煙がまるで自身のようだなと笑ってしまう


火を消して息も心も苦しくさせるネクタイを緩め、街に溶け込んだ

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