ソシャゲ重課金の俺が弟の貯金をガチャで溶かしたときの話

やまおか

第1話

「クズ」

 

 第一声、帰ってきた親からの言葉がそれだった。

 その後ろで、弟が涙目になっている。

 弟よ、一時間前に見せたあのキラキラした目はどうしたというのだ。


 ことの発端はスマホのソシャゲであった。 

 

 我が家ではスマホは高校生からという決まりがあった。しかし、いまどきは中学生でもスマホを持っていることが多い。同級生の間で流行っているソシャゲについて弟はよく話題にだしてはスマホを持つ俺のことをうらやましそうに見ていた。


 俺はわかっていた―――弟がスマホをもったら絶対にソシャゲにはまるに決まっている。我慢した反動は一気にくる。

 弟のソシャゲ廃人化を思いとどまらせるために、なにか妙案はないかと考えた。


 スマホを貸してやる言うと弟はうれしそうに駆け寄ってきた。


「ねえ、ソシャゲやってもいい?」


 もちろん、いいぞ。

 俺は弟にソシャゲの恐ろしさを体験させてやることにした。残していた無料チケットで11連ガチャをやらせた。


「あれ? これってハズレ?」


 出たのはSSRどころか当てたのはクズレアばかりだった。ソシャゲっていうのはこういうものなんだ。まさにドブ沼。


 オレとしてはここで終わりにするつもりだった。

 しかし、弟は意地になった。

 コンビニに走って電子マネーを購入すると、ガチャを回しだした。高校生になったらすぐにスマホを買えるようにと貯めていたお金だった。


 しかし、出ない。1回、2回とまわすが当たりが出ず、弟はとうとうキレだした。

 

「もうやだ! なんだよこのクソゲー!」

 

 諦めるのはまだ早い。10回連続でSSRが出なければ、救済処置として確定でSSRをもらえるシステムがあるのだからと教えてやった。


 行こう。アンラッキーの向こう側へ。光り輝くラッキー7が俺たちを待っている。

 そして、とうとう俺たちは成し遂げた……ドブ沼の底から光り輝くSSRをすくいあげたのだ!!


 やったぁ。


 SSR排出の演出に俺たちは手を合わせて喜んだ。

 

 しかし、帰ってきた母が空になった弟の貯金箱を発見してしまい、今に至る。

 俺は祈るように弟を見つめる。弟には泥棒が入って盗んでいったと話すように言い含めておいた。


「……ごめんなさい」


「使っちゃったものはしょうがないものねぇ」


 しょげかえる弟に母はなぐさめの言葉をかける。弟はあっさり白状してしまった。

 俺は必至に言い訳を並べた。

 俺もどうかと思うよ。ちょっと悪い癖がでただけなんだ。


「弟の貯金にまで手をだすなんてね。バイトで稼いだお金はどうしたんだい?」

 

 そんなものはもらった日に使い切った。ちょうどコラボガチャをやってたから逃したくなかったんだ。おかげで目当ての一枚はあてたぜ。

 

「本当にどうしようもないのねぇ……」

 

 母がため息とともにしみじみとした声でつぶやいた。弟は深く反省していた様子でこちらをチラチラ見ていた。

 おまえもドブ沼にはまるんだ、こっちにこい!

 弟に向けて手招きする俺を、母が怒るわけでもなくじっと見つめてくる。

 

「あんた、スマホ禁止」

 

 結局、俺はスマホを没収された。ガチャに使ったお金を弟に返すよういいつけられ、バイトにいそしんでいる。


 これは、アンラッキーに挑んだ兄弟の物語。スマホが戻ったらまたガチャするんだろうなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ソシャゲ重課金の俺が弟の貯金をガチャで溶かしたときの話 やまおか @kawanta415

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ