34話。弟アルフレッド、最悪の魔物を復活させてしまう
【弟アルフレッド視点】
「ちくしょうぉおおおおッ! なにが国外追放でも処刑でも構わぬだ! この俺様を捨てて、兄貴を跡取りにしようなんざ……絶対に許せねぇええええ!」
王城が爆発で激しく振動し、近衛騎士がよろめいた隙に俺様は全力で逃げ出した。
「こら、待たんかぁあああ!」
「いや、待て。ここは姫様の護衛が優先だ!」
王女近衛騎士団は、追ってくる素振りを見せなかった。
城内は完全に混乱のるつぼと化しており、俺様を捕まえようなどと考える奴はいなかった。
これは大チャンスだぜ。
「……確か王城の地下には、パラケルススの遺産を収めた隠し宝物庫があるんだよな。ヒャッハー! こうなりゃ、今のうちにかっぱらって、ミルディン帝国への手土産にしてやるぜぇ!」
もうエルファシア王国で、俺様が成り上がる芽は完全に絶たれた。なら敵国に手土産持って亡命するしかねぇ。そうすりゃ、貴族の地位と暮らしを失わずにすむ。
パラケルススの隠し宝物庫の存在は、実家の書庫にあった古文書を偶然見つけて知った。
災厄とも言われるパラケルススの遺産を封じてあり、その封印を解けるのは王家の血を引く者だけなんだとよ。
『何があっても、絶対にその封印だけは解いてはならん。パラケルススの末裔として守り抜け』と書かれていた。
ウィンザー公爵家と王家は、長い歴史の中で婚姻を繰り返してきたおかげで、俺様にも王家の血が混じっている。つまり、俺様はその宝物庫に入ることができるって訳だ。
俺様は舌舐めずりした。
封印されているのは、多分、なにか危険な兵器だろうな。
なら30万の魔物の大軍を突破するためにも、絶対に手に入れなきゃならねぇ。
その巻き添えで他人がどれだけ死のうが、俺様の知ったこっちゃねぇからな。
「アヒャヒャヒャ! こんなうまい考えが浮かぶとは、さすが俺様は天才だぜぇえええ! すげぇ兵器が手に入ったら、マイスの兄貴に復讐してやることもできるしなぁ!」
そう思うと俄然やる気が湧いてきた。
兄貴をぶちのめしてルーシー王女を手に入れ、エルファシア王国もミルディン帝国も支配する地上最強の王として君臨する。
そんなバラ色の未来が見えてきた。
「さあーてぇ。確か、このあたりにあるんだよな……」
地下に降りた俺様は、宝物庫への入り口があるハズの武器庫を調べた。
武器庫は本来ならネズミ一匹通さないほど警戒厳重だが、魔物の迎撃のために警備兵はみんな出払っていた。
俺様が壁をペタペタ触れて回ると壁が輝いて、ズズズズズッと左右にスライドして入り口ができる。
「おっ。すげぇ、雰囲気があるじぇねか。さすがはパラケルススの災厄の遺産だぜぇえええ!」
俺様は喜び勇んで、隠し部屋に足を踏み入れた。
魔法の明かりで周囲を照らすが、宝物庫と聞いていたのに中には石棺があるだけだった。
兵器の他に、一生遊んで暮らせるだけでの金銀財宝を期待していたのに、肩透かしも良いところだった。
「けっ、なんだよ。これだけかよ、オイ!」
思わず悪態を付きながら、石棺に手をかける。
すると、石棺がなにやら青白く不気味に輝き、身体が凍りついたように動かなくなった。
「なんだ、こりゃ……なにかの魔法トラップか?」
『おぬし、まさかエルファシアと我の血を引く者か?』
眼の前に白い人影が浮かび上がる。それは、杖を持ったいかめしい老人だった。
こんな場所に生きた人間がいるはずがねぇ。コイツは多分、幽霊(ゴースト)だな。
「ちっ。まさか宝物庫を守るモンスターってか? おい、俺様は大錬金術師パラケルススの末裔のアルフレッド様だぞ! とっと失せろ!先祖の物は俺様のモノ! 俺様のモノも俺様のモノだ!」
『ハハハハハハッ! やはりか! これは滑稽だな。お前ごときが、パラケルススが最高傑作、守護竜ヴァリトラを手に入れよとでも言うのか?』
老人は突如、狂ったように笑い出した。
何だ、コイツ……?
「守護竜ヴァリトラだと、それがパラケルススの災厄の遺産の正体か!?」
だが、ここに何があるのかはわかった。伝説にある本物のヴァリトラが、封印されてやがったんだ。
「よし、ソイツをとっと寄越しやがれ! その力で俺様は、もう一度、成りやがってやるんだ!」
『ふはっ! 愚かな。だが、その野心と若い肉体は気に入った。せいぜい、我がうまく使ってやろうではないか』
老人の幽霊は、手を伸ばして俺様の額に触れた。
その瞬間、耐えがたい痛みが俺様の全身を駆けめぐる。
「ぎゃぁあああああッ! 痛い、痛い! なにしやがる!?」
『おぬしの魂を肉体から引き剥がそうとしているのだ。ジタバタしても無駄だぞ』
「なにぃいいいい!? 訳がわからねぇことを! 俺様は大錬金術師パラケルススの末裔、アルフレッド・ウィンザー様だぞ。この俺様にこんなことをして、タダで済むと思ってやがるのか……ッ!?」
『我が、そのパラケルススだ。錬金術師を極めて不老不死に至ったというのに、盟友のエルファシアに裏切られて、ここにヴァリトラ共々、封印されておったのだ』
「はぁ……?」
俺様は呆然と、パラケルススと名乗ったジジイを見つめた。
そういや、パラケルススは晩年、不老不死の研究に耽溺し、そのために大勢の人間の命を奪ったという伝承があった。
その後、研究は頓挫し、パラケルススはいずこかに姿を消したというが……まさか盟友だった建国王エルファシアによって、ここに封印されていたのか?
『さあ、大人しく身体を明け渡すが良い。これぞ我が不老不死の秘術!』
その途端、苦痛に意識が飛びそうになった。
こ、こいつは俺様を消そうとしている、殺そうとしている。そう直感した俺様は恐怖に絶叫した。
「やめろぉおおおおッ!」
『クハハハハッ! 貴様は兄に復讐したかったのではなかったのか? 身体を捧げてくれた礼だ。お前を強大なモンスターに転生させ、兄を討つ力を与えてやろう。どうだ? 本望であろう!』
パラケルススはバカ笑いを上げる。
俺様の心を読んだようだかのように、しゃべってもいないことを口にしていた。
俺様は必死に暴れようとするが、なぜか手足が動かなくなっていく。まるで、俺様の身体が俺様の物ではなくなってしまったような……
『ふむ? そのマイスとやら、妹をドラゴンに作り変えただと? これはおもしろい! さすがは我が末裔。そのティニーとやらを殺して解剖してみたいのぉおおお!』
ゴォオオオオオオオオッ!
地獄の底からわきあがってくるような咆哮が室内に響き渡った。
『蘇るがイイ。真のヴァリトラ、我が下僕たる最強のドラゴンよ!』
石棺を内側から突き破って、巨大な何かが出現した。それは凄まじい勢いで、膨張、巨大化していく。
それを見た瞬間、俺様の意識は永遠の闇に閉ざされた。
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