23話。30万の魔物の軍勢、マイスのための王宮を襲うことを決意する
【ヴァリトラの配下、ゴブリンキング視点】
俺はヴァリトラ様の一番の配下であるゴブリンキングだゴブ。
どれくらいヴァリトラ様に信頼されているかというと、ヴァリトラ教団などという不敬な組織の壊滅を命じられたくらいだゴブ。
ヴァリトラ教団の教会を破壊し、教団幹部から不正の証拠を引き出して告発した手腕は、ヴァリトラ様からお褒めいただいたゴブ。
その際、ヴァリトラ様から魔法通信で、こんな命令を受けたゴブ。
『よくやりましたゴブリンキング。【至高にして至大であられるお方】、マイス兄様に危害を加える愚か者が現れた場合、全力で駆けつけてお守りしなくてはなりません。そのために、ゴブリン族10万にはベオグラード近くの森への引っ越しを命じます』
『ハハッ、お褒めに預かり光栄ですゴブ。仰せのままにゴブ!』
それで約10万の配下を引き連れて、ベオグラード近くの森に拠点を移したゴブ。
正直、かなり大変だったゴブが、ヴァリトラ様のお役に立てるならお安い御用だゴブ。
その時、ゴブリンジェネラルたちが、不満そうな顔をしてやってきたゴブ。
「ゴブリンキング様。ヴァリトラ様の敵を殲滅できると思ったのに、一度も剣を交えぬまま撤退とあって、配下たちから不満の声が上がっていますブゥ」
「ヴァリトラ様は人間を攻撃してはいけないと仰せですが、この前、廃城を攻めた時のように、殺さなければ良いだけではありませんかブゥ?」
身分の高いゴブリンジェネラルたちは、語尾に『ブゥ』をつけてしゃべるゴブ。
ちなみに一番偉い王様である俺は、語尾に『ゴブ』をつける栄誉を与えられているゴブ。
「ヤツラは、我らが真の支配者である【至高にして至大であられるお方】のお命を狙ったブゥ。これはゴブリン族だけでなく、我らエルファシアの魔物すべてに対する挑戦ですブゥ! このまま捨て置く訳には参りませんブゥ!」
「お前たち……その気持ちは俺も同じだゴブ。しかし、【至高にして至大であられるお方】は、エルファシア王国との戦争を望んでおられず、撤退を命じられたゴブ」
この前、ヴァリトラ様から出動命令が下り、30万を超える混成軍でベオグラードに援軍に駆けつけた時の話だゴブ。
「ヴァリトラ様がエルファシアの地を支配されるようになってから、我らゴブリン族はとても生活が豊かになったゴブ。【至高にして至大であられるお方】のご意思を無視する訳にはいかないゴブ」
俺はヴァリトラ様から受けた恩を思い出したゴブ。
『王国から牛やら豚やらをたくさん献上されましたが、私は生肉など食べないので、みなさんどうぞ』
そう言ってヴァリトラ様は、飢えに苦しんでいたゴブリン族に大量の食料を恵んでくださったゴブ。
ゴブリン族の長老に、竜言語を解する者がいたおかげで、我らはあのお方と意思疎通ができたゴブ。おかげで、あのお方の寵愛と庇護を受けて、ゴブリン族は他の魔物たちから一目置かれるようになったゴブ。
『あーっ、お腹が空きました。私がギリギリ生きていられるのは、【至高にして至大であられるお方】マイス兄様がときどき、パンやお菓子を差し入れしてくれるからです。すべてはマイス兄様のおかげです。あなたたちもマイス兄様を崇めるように、良いですね?』
ヴァリトラ様はさらに、そのようにおっしゃっていたゴブ。
ヴァリトラ様がおられるのは、【至高にして至大であられるお方】マイス様のおかげゴブ。
ならば我らはヴァリトラ様だけでなく、マイス様にも忠誠を捧げるゴブ。
「ゴブリンキング様! 【至高にして至大であられるお方】を辺境に追放し、あまつさえお命を奪おうとするなど、到底、許されることではありませんブウ!」
その通りだゴブ。
「ゴブキング様、人間どもに思い知らせてやるべきではありませんかブゥ。奴らは【至高にして至大であられるお方】をパラケルススなどと勘違いしておりますブゥ。これ以上、人間どもの増長と勘違いを捨て置く訳には参りませんブゥ!」
「左様ですブゥ! ヴァリトラ様も今回の件に関して、大層お怒りですブゥ。我らゴブリン軍団10万で、エルファシアの王宮を襲撃し、メチャクチャに破壊してやりましょうブゥ!」
「そうですブゥ! 人間を殺さなければ、おのお方の逆鱗に触れることはきっと無いですブゥ!」
ゴブリンジェネラルたちは、真剣な顔で進言してきたゴブ。
「……しかし、それでは人間どもと戦争になる可能性があるゴブ。あのお方は、エルファシア王国との戦争は絶対にするとおっしゃっていたゴブ」
「ご心配には及びませんブゥ。人間どもはヴァリトラ様の力に依存しきっていますブゥ。我ら魔物と全面戦争などしたら、国が崩壊することは、わかりきっているハズですブゥ」
「あのお方に対する認識を人間どもに改めさせ、国王にヴァリトラ様のみならず、マイス様を崇めるように要求するのですブゥ。従わない場合は、何度でも王宮を破壊すると脅せば……」
「それは、おもしろそうだな! 我らオーク族も混ぜろオーク!」
大声を上げて話に混ざってきたのは、戦斧を担いだオークキングだったゴブ。
語尾に『オーク』をつけてしゃべるのは、オーク族の王にだけ許された栄誉だゴブ。
「オークキング、なぜここにやって来たゴブか?」
「決まっているオーク。【至高にして至大であられるお方】マイス様をここまでコケにされて黙っていられる訳が無いオーク。お前たちにも声をかけてエルファシアの王宮に乗り込むつもりだったオーク!」
見ればオークキングは武装したオークの軍団を付き連れていたゴブ。
こ、こいつ、やる気まんまんだゴブ。
「あなた方だけで王宮に乗り込むつもりとは水臭いですね。我らリザードマンたちも、加勢させていただきますよ」
「リザードマン、お前たちもゴブか!?」
さらに飛竜に乗ってリザードマンの軍団まで現れたゴブ。
「ヴァリトラ様のおかげで、勢力争いに明け暮れていた我ら魔物はひとつにまとまり、繁栄を手にできました。そのヴァリトラ様がエルファシアの地より去ってしまっては、フッ、我らは困るのですよ」
リザードマンは少々理屈っぽいけど、ヴァリトラ様への忠誠心は同じゴブ。
「それにエルファシアの国王は、ミルディン帝国に侵攻する計画だとか。大国同士の衝突となればその余波で、我らの住む森まで焼かれる恐れがありますからね。それを未然に防ぐ、自衛のための戦いとなれば【至高にして至大であられるお方】もお許しになるでしょう」
「ゴブリンキング様やってやりましょうブゥ! これだけの兵力があれば、エルファシア王宮を破壊し尽くすなど、造作もありませんブゥ」
「わかったゴブ。マイス様をコケにしてくれたということは、ヴァリトラ様を……引いては、我ら魔物をコケにしてくれたということだゴブ」
俺も腹を決めたゴブ。
「思い切り暴れてやるゴブ!」
うぉおおおおおおッ!
特大の歓声が、種族を問わず上がったゴブ。
みんなの心が一つになったゴブ。
マイス様のおかげで平和と繁栄を手にしておきながら、マイス様を追放し、あまつさえお命を狙った愚かな人間どもに正義の鉄槌を下してやるんだゴブ。
※※※
こうして、マイスとティニーに忠誠を誓うがあまりに、魔物たちの暴走が始まるのであった。
王国の崩壊が刻一刻と迫っていることを、エルファシアの国王は、まだ知らない。
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