18話。街を襲った無法者たちを返り討ちにする

「お前たち、今すぐ降伏しろ! 僕はこの街の領主マイス・ウィンザーだ!」


 僕は剣を抜き、ここぞとばかりに声を張り上げた。


「や、ヤバいですよ団長! たった一体で帝国軍を壊走させた化け物に勝てる訳が……ッ!」

「い、いや、アルフレッドの旦那から聞いているぞ! マイス・ウィンザーはヴァリトラの偽物を使っているってな!」


 その一言で、崩壊寸前だった武装集団は落ち着きを取り戻した。


「偽物!? た、確かに。王国を守護する最強ドラゴンが、こんな辺境にいる訳がねぇ!」

「そもそも、俺たちはアルフレッドの旦那の──王国政府の依頼で動いているんだ! 守護竜ヴァリトラは俺たちの味方のハズだぁ!」

「アルフレッド? まさか、お前たちを差し向けたのはアルフレッドなのか!?」


 驚いて僕は問い質す。


「そうだ! 黒死病が蔓延するこの街は、焼き滅ぼすことに決まったんだよ!」

「……そんな非道が王国政府のやり口なら、絶対に許さないぞ!」


 この街はせっかく息を吹き返したんだ。

 例えこれが国王陛下の決定であろうとも、僕は従う気は毛頭なかった。


「おおっ、ご領主様! 我らベオグラード騎士団はご領主様に従います。王国政府なにするものぞ!」


 騎士団長が剣を振り上げて怒号を上げた。


「そうですか。わかりました。では、ここからは全面戦争です」


 ティニーから猛烈な怒気が膨れ上がった。

 魂を押しつぶすような咆哮が、守護竜ヴァリトラとなった彼女から放たれる。


「アルフレッドもエルファシア王国もマイス兄様に仇なす者は、すべてこの私が粉砕します」

「ヒィィィイイッ!?」

「はひゃあ!? だ、だだ団長! アレは本当に偽物なんですかい!?」


 無法者たちは、完全な恐慌状態に陥った。


「あ、当たり前だ! お前ら、あの偽物ドラゴンに、一斉攻撃だぁああ!」


 その号令の元、魔法と弓矢の嵐がティニーに叩き込まれる。

 恐怖に突き動かされた無秩序な攻撃だった。


 だが、ティニーはそよ風でも当てられているかのように、余裕の構えだ。

 魔法も矢弾も、無敵の強度を誇るドラゴンの鱗には傷ひとつ付けられない。


「バカな、どうして効かないんだぁあああああ!?」

「蹂躙します【スタン・ボルト】」


 ティニーから目が眩むような雷撃がほとばしり、武装集団を打ち据えた。


「ぎゃあああああッ!?」


 彼らは絶叫と共にバタバタと倒れて痙攣する。


「どうですか? 死んだ方がマシだと思えるような苦痛でしょう」

「こ、こここ、コイツは本物じゃねぇかッ!?」

「勝てる訳がねぇ!」

「撤退だ! 撤退しろ!」


 残った敵は、脇目も振らずに逃げ出した。

 その中にはリーダー格と思わしき男もいた。味方を盾にして、ティニーの雷撃をやり過ごしたらしい。したたかな男だ。


「みんな奴らを捕まえるんだ! 特にリーダー格の男を逃がすな!」

「ハッ!」


 命令を下しながら、僕はリーダー格の男を追いかける。

 本当に王国政府の命令で動いていたのか? 背後関係を調べるためにも、絶対に捕まえたかった。


 口笛を吹くと、聖獣ユニコーンが駆けつけて来る。僕はユニコーンに飛び乗った。


「ユニコーンだと!? なんで、こんなすげぇ聖獣が、ド辺境にいやがるんだよ!?」


 あっと言う間に、リーダー格の男に追いつく。


「あるじ様の命令で、みんな捕まえるにゃ! 喰らえ、猫パンチぃいいい!」

「ふわぁ〜、気持ちイイィ……」


 巨大猫ミーナが無法者たちにパンチを喰らわすと、相手はアクビをしながら眠りについた。

 ミーナの手には、ぷにぷにの肉球がついており、これで叩かれると、気持ち良さのあまり眠ってしまう特殊効果があった。


「猫パンチ! 猫パンチ!」

「ほぐぅ……眠気がぁ」


 縦横無尽に敵の間を駆け抜け、ミーナは次々に敵を眠らせて行く。


「こ、今度は化け猫!? しかも俺の配下を一撃でのしているだと!?」

「ミーナはあるじ様に創造されたあるじ様の忠実な配下ですにゃ!」

「はぁ!? 生命の錬成って、錬金術の奥義じゃねぇか!?」


 リーダー格の男は、ミーナの言葉に度肝を抜かれていた。


「ここから先は通さん!」

 

 逃げる無法者たちの行く手を、山のような巨人サイクロップスたちが遮る。ティニーが配下にした者たちだ。

 

「はぁあああああ!? 今度はAランクの魔物だと!?」

「我らはヴァリトラ様と、【影の魔王】マイス様の忠実なる下僕だ」


 サイクロップスたちは巨腕を振るって、武装集団をなぎ倒す。


「ぶべぇええええええッ!?」


 その圧倒的なパワーに、彼らは為す術もない。


「僕の領地を攻撃した罪を、償ってもらうぞ!」


 僕は【パラライズ・ソード】を抜き放って、リーダー格の男に振り下ろした。

 紫電がほとばしり、男は絶叫をあげて倒れる。


「やりましたぞ! ご領主様が敵の首領を倒しましたぞ! みな勝ち鬨だ!」


 騎士団長が大声で叫んだ。


「エイエイオー! マイス様の勝利だ!」

「ふんっ、当然です。兄様と、この私に勝てる者などこの世におりません」

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