8話。ベオグラード騎士団から忠誠を誓われる
「えっ、あ。こ、こちらのお嬢さんは一体……?」
守護竜ヴァリトラが少女の姿になったので、騎士たちは目をパチクリさせていた。
「この娘は、僕の妹のティニーです。ご覧いただいた通り、ヴァリトラの正体はこの娘なんです」
「はい。4年前に黒死病にかかった私は、兄様の錬金術によって救われました。その後、ヴァリトラとなって兄様を守るついでに、王国を守っていたのです」
「なんと、そんなことが……ッ!?」
騎士たちは驚嘆のあまり口をあんぐりと開けた。
見たところ、彼らの黒死病はまだ初期段階のようだ。これなら、治療はたやすいだろう。
僕は懐から回復薬(ポーション)を取り出した。
「ランクSSSへの存在進化!」
回復薬(ポーション)に魔力を送り込むと、目も眩むような強い輝きが放たれた。
光が消えた後に、赤色の回復薬(ポーション)が、透き通るような蒼色に変わっていた。
「コレをみんなさんで、一口ずつ飲んでください。万能の霊薬エリクサーです」
「はぁっ……!?」
騎士たちは、さらなる驚愕に腰を抜かした。
「ま、まさか。錬金術の奥義たる霊薬エリクサー!?」
「回復薬(ポーション)を素材にランクSSSのエリクサーを作られたのですか!?」
エリクサーはあらゆる怪我、病気を治すという究極にして万能の薬だ。
王国には伝説の錬金術師パラケルススが残したというエリクサーが7本残っているのだが、どれも国宝扱いで王族にしか使用が許されていなかった。
「はい。エリクサーなら回復薬(ポーション)から、いくらでも作れますので遠慮なくどうぞ。大量生産のための機材も王都から運んで来ました」
「はっ? えぇええええッ!?」
騎士たちは理解が追いついていないようだった。
「恐れ入りましたか? 世界広しといえど、エリクサーを錬成できる錬金術師は、マイス兄様を除いてまずいないでしょう」
ティニーがますます自慢げに胸を逸らす。
「……あ、ありがとうございます。ご領主様。それでは失敬」
騎士団長が狐につままれたような表情で、エリクサーを一口飲んだ。
「なっ! たぎってくるぅうう!?」
その途端、騎士団長のやつれた顔に生気がみなぎった。黒死病の症状である黒い斑点が、消え去る。
「みなさんも遠慮なくどうぞ。これを飲めば黒死病が治ります」
「ふ、不治の病である黒死病が治る!?」
「確かに、団長の黒い斑点が消えているぞ!」
「本当か!? 死の斑点が消えているのか!? あっ、あああ、嘘のように調子が良いぃいい!」
感激のあまり、騎士団長はその場で飛び跳ねた。
「……あっ、いや、これは失礼しました。ご領主様! なっ、なんとありがたい! これで皆が救われます!」
騎士団長は涙を滝のように流しながら、平伏した。
エリクサーを与えられた他の騎士たちも、次々に元気を取り戻していく。
「うぉおおおお! 力がみなぎってくるぞ!」
「ご領主様は、まさに我らの救世主です!」
「ありがとうございます。大錬金術師マイス・ウィンザー様、万歳!」
「我らは王都から見捨てられたと思っておりましたが。まさか、マイス様のような神のごとき錬金術師が、ご領主様として来てくださるとは、感激ですっ!」
「……いえ、国王とウィンザー公爵家は、マイス兄様を追放した大罪人にして愚か者です。彼らは兄様を黒死病で殺すために、この地に追いやりました。できれば潰したいというのが正直なところですね」
ティニーの毒舌に、騎士たちは笑顔を凍らせる。
「えっ……?」
「ちょ、ちょっとティニー……!」
「本当のことですし、王国は近いうちに勝手に滅亡するのですから、良いではありませんか?」
僕は頭を抱えた。
下手をすれば、それこそ反逆罪に問われかねない発言だぞ。
「ティニーはドラゴンになったためか、ちょっと常識が欠落していまして……たまに過激なことを言うかも知れませんが、真に受けないようにお願いします」
「さ、左様でございますか」
騎士たちは呆気に取られていた。
「大丈夫です。僕がこの地の黒死病を解決してみせます! さっそくですが、領主の館に案内していただけますか?」
僕は胸を叩いて請け負った。
黒死病は、かつてティニーを死の寸前まで追い込んだ憎き敵だ。
僕はあれから黒死病の研究をして、その流行の原因を突き止めていた。
「はっ! もちろんでごさます!」
「なんと頼もしい! さすがは我らが新領主マイス・ウィンザー様!」
「ベオグラード騎士団は、マイス様に絶対になる忠誠を誓いまする!」
騎士たちは、諸手を挙げて僕を歓迎してくれた。
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