真夏に気を付けるお話

@kumadagonnsaburou

第1話


「ぱねぇ、マジで今日はぱねぇぞ」


 じゃらじゃらとうるさい音を鳴らすパチンコ屋で、男は上機嫌にタバコをふかす。


「どうぞ~」


 店員から空箱を渡され、銀色の玉が満杯に入った箱が後ろに・・ではなく通路側に大量に詰まれる。

 箱・箱・箱・箱。

 1玉の4円の銀色の玉がこれでもかと積み重なっている。

 もはやこの店の玉が全て俺の元に来ているようだ。


「ふへへへへへへっ、今日はぱねぇ。朝市の抽選が7番目だったから7番の席に座ってみたらビンゴだぜ」


 俺の趣味に合わないクソ面白くもない萌え台だったが、7回目の入賞で、777で当たり、そのままずっと7回転目か77回転目に必ず当たっている。

 もはや機械の故障じゃねぇの? と俺自身疑うほどだ。


「あ~、7回転過ぎちった。ここから無駄な演出とか絡んで微妙になげぇんだよなぁ・・・よし、飯でも食いに行くか」


 普段は飯など食わずにコーヒーか炭酸ですませるが、今日はアホほど稼げているので豪遊してやる。

 まぁ、豪遊すると言っているが、行くのは隣のラーメン屋だし、真夏にラーメンって・・・・他にいくらでもうまい飯屋があるだろと思うだろうが、真夏の車内はクソあちぃんだ。

 数分とはいえ蒸し風呂状態の車の中に甚くはねぇ。

 そんな苦行をするよりも、隣のラーメン屋にひとっ走りした方がいい。


 そんな事を思いながら俺は店員に飯休憩を伝え、ラーメン屋に向かう。

 今日はチャーシュー麺に餃子とチャーハンは勿論。

 好きなだけトッピングしてやる。

 チャーシュー五人前とかやっちまおうかな。


 そんなウキウキ気分で照りつける太陽の下、足早に駐車場を歩いていると、ナンバープレートが777と表示されている MINI sevenの車を見つけた。


 あの車の持ち主は相当パチンコ好きと見たぜと思いながら、なんとなく俺はその番号に引かれて、ふらふら~と近寄る。

 クッソ暑い太陽の下何をやっているのかと思うだろうが、気になったのだから仕方が無い。

 アレだ。

 さっきまで大当たりの777を見続けていたから、身体が勝手に動いてしまったのだ。


「運がいい数字に近づいて運をさらに良くする・・・的な? くくくっ、自分で言ってて意味分からねぇや」


 そんな意味不明な事を呟きながら、俺はその車に近寄った。


「つかエンジンつけっぱなしじゃねぇか。バッテリー上がっち・・・・・はぁ!?」


 そして面白半分で近づいたことを少しばかり後悔する羽目になった。


「おいおいおいおいっ! ガキがいるじゃねぇかよ! つか、顔色可笑しくねぇか? これマジでヤバくねぇか!?」


 車内を覗き込みながらぐったりとしている子供に声をかけるがピクリとも動かない。

 バンバンと車の窓を叩いても全く反応することはない。


 ヤベェヤベェヤベェと思いながら、俺は一旦パチンコ屋に駆けこみ、店員を捕まえ子供が車内に閉じ込められている事を話し、さっさとどうにかしろと言ったのだが、声をかけた店員が悪かった。

 彼はここで働き始めて1週間たったかどうかのド新人のようで、あたふたするだけで特になにしない。

 一応インカムで上司だか先輩だか知らないが、報告しようとしているようだが、報告するタイミングがわからないのか、なかなか行動に移さなかった。


「ああクソ! 仕方ねぇなっ!」


 さっさと行動してくれればいいモノを、中々動かないなら仕方ない。

 こういう時は人命が優先だと思い、俺は自分の車に向かい、助手席に放り投げていた、ガラス割りハンマーを持ってくる。

 何でそんなものがあるのかって?

 それは入社してから3年車を買わなかった俺が、初めて買ったからって飲み会の席で同僚たちがプレゼントしてくれたのだ。

 ヘンなステッカーとか渡されたが、今はその話はいいだろう。

 それよりも子供が心配だ。


「おら! ぶっ壊れろこんにゃろ! うぉっ!?」


 ぐったりしている子供がいるガラスを割ると、ガラスで子供が怪我をしてしまう可能性があったため、反対側を壊す。

 というか、ガラス割りハンマーやべぇ~。

 一発でバラバラになったぞ。


「おっと、感心してる場合じゃねぇな。さっさと避難させねぇと」


 シートベルトを外し子供を抱きかかえると、クーラーのきいた店舗に戻り、自販機から冷たい飲み物を何本も購入し、首と脇を冷やす。

 どこを冷やすべきなのか完全に理解している訳ではないが、思いついたことは全部やった。

 そのおかげか、少し子供の顔色が良くなった気がする。

 水を少し口元に垂らせば、無意識に飲んだからな。


 そんな事をしていると、やっと店の従業員が慌ただしく近寄ってきた。

 おせぇよ! と文句を言いそうになったが、まぁ仕方が無いと思い、後は従業員に事情を話して任せることにした。


 いや後は任せるなよと思うだろうが、他にどうしようもないのだ。


 車内にガキを放置する常識のないクズ親だぞ。

 人命救助だなんだと理由はあれども、そう言う輩は自分の利益しか求めない。

 そして被害者と加害者が直接顔を合わせるのは、面倒以外の何ものでもないと思われたので、店側も引き合わせたくはなかっただろう。


 まぁ、それはいい。それはいいが。

 警察を呼んだから事情聴取のために店内にいてくださいと言われた。

 俺の腹はラーメンを欲していたと言うのに食いに出かけられないとは・・・残念としか言いようがない。


 なので仕方なく席に戻りパチンコを打ち始めたのだが、子供の状態が気になったり、警察が来たらどう話すべきかと悩んだりしているうちに、あっけなく終わってしまった。

 どうやら今日の異常な運は、先程の子供にでも吸われてしまったようだ。


「子供にとってはラッキーでも、俺にとってはアンラッキーだったな」


 さよなら俺の幸運のトリプルセブン。

 閉店まで終わらぬトリプルセブンを眺めていたかったぜ。


 ガックリと肩を落としながらも、この程度の不幸でガキが助からうならば、アンラッキーでもいいかと思う俺であった。


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