第卅壱話 死神は己の手を見る
長い事古株の悪魔がいないことに、他の悪魔達も気づき始める頃だろう。
しかしながら、そんなことはどうでもいいと思う悪魔の方が大多数を占めていた。自分の欲求を優先させる生き物であった為、仲間意識などと言うものは存在せず、強者がいるからそれに従うと言う、単純な脳みそでできていた。
しかし、そんな単純脳みそでも、あるべき姿がないと困惑する性格を持つものも中にはいるらしく、行方を探すべく捜索隊を編成して探しに行く悪魔達もいた。
中には優秀なものも混ざっているようだが、それは
捜索隊は範囲を広げて捜索に繰り出すが、まさか自分たちの
外部の人間の犯行であると言うことは、この指揮官悪魔は理解しているが、外部にそんな力を持った奴がいるなんぞ考えにくい……とも思っているようだ。
そして、指揮官悪魔が古株の悪魔を見つけた頃にはもう…………事切れた状態で発見された。
それも、ぐちゃぐちゃに散らかされた胴体。長く激しい拷問でしかつかないような傷……首に締め付けられた跡が残った、凄惨な状態で見つかっているのだ。
指揮官悪魔はこれを見た瞬間に生命の警鐘がなった。
これをしでかしたものになら、この悪魔達は全て狩り尽くされてしまうと。
その場から逃げようとしたが、それはもう遅い………………何故なら、一緒に連れてきた他の悪魔達を見ると、すでにバラバラに裂かれていて、生きていた証など踏み躙られた状態になっていたからだ。
一人の
大きな声を上げようにも、他の無能な悪魔達がこちらのことに気がついて、助けに来るなどは考えにくい。むしろ、あいつらは自分以外の悪魔が死んだら、間抜けと嗤うだろう。
嫌な汗が吹き出る指揮官悪魔は、なんとかしてこの場から脱出しなければならないと考えたが、目の前の少女が…………いや、少女の皮を被った死神が、それを許してくれるなどとは到底思えない。
許しを
その様子を見ていた
「………………何故、許しを乞う。何故、今更許しを得る。お前らに許しを乞うた人間もいただろう。それをお前らは踏み躙ってきたんだ。だったら、同じ状況にならないと…………不公平というものだよなぁ?」
指揮官悪魔はその発言を聞いた瞬間に飛び起きて逃げようとするが、顔面を掴まれて拳を一発ぶち込まれる。
幼児がおもちゃを投げるかのように、ごく自然な形で吹っ飛んだ指揮官悪魔は当惑の嵐にあった。
自身の体が傷つけられたのなんて、数えるぐらいもないというのに、今は最高に痛みを感じている…………これは一体なんなのだ……!?と。
しかし、その疑問に答えてくれる存在などいるわけがなく、ただただ拳を体に何発も何発も叩き込まれているこの状況を打開する策など、とうに思いつかないというのが現状だ。
何てものに喧嘩を売ってしまったのだろう。
自分たちは何かの
何を考えても、どれだけ悩もうとも、今の状況が好転するわけでも、一気に変わるわけでもないが、夢想せずにはいられなかった。
人間もそうだが、悪魔も一緒なのである。
辛い時があったら、何か楽しい事を思い出して、一時的に辛い事を忘れさせるという、そんな習性が似ているのだ。
それもそのはず…………悪魔というのは人造人間なのだから、当然と言えば当然備わっている機能だろう。
「………………逃げようとした罰は終わりだ。次は罪を精算する番だな」
自身は助からないと判断した悪魔は、最後の抵抗として大声を出す。
それには流石の死神もびっくりした表情を見せたので、指揮官悪魔としてはいうことがないくらいの良い気分である。
ナイフに力を溜めて、首を切り落とされる瞬間まで、指揮官悪魔は死神を見続けた。この死神はこちらの命を全て狩るためにやってきたのだろうことは、最初の方で予想がついている。
多分、リーダーでさえも、この死神を相手取るには不足といったところだ。
願わくば、我々が勝利を収めれますようにと願い、その思い虚しく……指揮官悪魔は絶命した。
死神はナイフに力を込めて、血でドロドロになった手を見る。
罪の重さに押しつぶされそうになったのか……それとも、ただただ汚らしい血を見るのが嫌なのかはわからないが、愉快な表情はしていない。…………まるで能面のような表情の
手を見るのをやめると、この階層の中心区へ向かっていく。
そこに多数の悪魔が存在しているだろうから。
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