第廿壱話 威風堂々

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 惨憺さんたんたる状況の華恋とは一転、この二人…………コントをまだ続けていた。

 そう、龍公国の姫君と侍従長はというと、周りを困惑させるのに充分な話をしていた。

 姫君は自身のことについて、ゼーゼスに問いただす。


「ねぇ、ゼーゼス!私と華恋様が結婚するにはどうしたらいいと思う?」


「お茶です」


 壊れた機械のようにお茶ですしか言えなくなったゼーゼスの心は、完全に壊れていた。

 彼がこのようになる姿は、他の侍従のものが見ても驚天動地きょうてんどうち…………まさに、地球が一回壊れても信じられないという人間の方が多いだろう。

 屈強な戦士であるゼーゼス侍従長は、今も尚崩壊に向かってひた走っているわけである。


「そうよねぇ、やっぱり身長差はどうにかならないものかしら!私はキスをする側ではなく、していただく側っ!そこは譲れませんわね!」


「お茶です」


 もう分かった……分かったから止めてくれと、悲痛な叫びを隠すゼーゼスであるが、先ほどから四文字しか言葉を発していない。

 言外にもう限界であるというのが窺える。

 ストレスで胃がイカれてしまうのではないかという懸念があるが、あと一回ぐらいは大丈夫だろうと……あと一回の戯言ならば聞き流せる、かもしれないゼーゼスの心理の坩堝は、水が抑えきれず、溢れているばかりである。


「ねぇ、聞いてますの?ゼーゼス、最近おかしくなりましたわねぇ?一体どうしたのかしら?働かせすぎてはいませんし、どうしたものでしょう!まぁ、悩んでいても仕方がないことですわ!ねんねなさい、ゼーゼス!」


「お茶って………………言ってんだろうがぁぁっぁぁっぁっっっっっっっっぁああああ!」


「ひゃぁあああああああああああああ!」


 主人あるじに向かってスパーキング!!

 龍公国の姫君であるこの華恋狂バーサーカーのお召し物が、お茶で汚染されたザマを通りかかった生徒が見て、それはそれは満足しながら鼻血を出してぶっ倒れたという。

 体のラインがくっきり見えて、それはそれは最高の見心地だった…………どんな絶景よりも絶景、その素晴らしき双丘の広大さに心打たれているのか、鼻血を流した者以外の剣が高らかに空に向かって起立する。

 中には、見ただけで感動し過ぎて、ミルクを芝生に落としてしまう者たちもいたことを明記しておこう。


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 なんか変な光景が見えたような気がするんだが……?まぁ、今はこの戦いに集中しなきゃな。

 首筋から脱出すると、俺はその臭い口に向かって全力で突撃する。

 いくら外皮が硬くても、お前の中身の方は柔らかいんじゃないか?その証拠に、少しいや〜な顔してるぞ?お前。

 ブレスを吐き捨て、こちらの進行を妨害してくるが、そんなのはお構いなしにと、進んでいく様を見ると、龍も少し驚いた様な表情?をしていた。


「………………どうした、俺を焼き殺すんじゃないのか?」


 なぜブレスを切っているのか……原理がわからないことがあると怖いだろう?

 当然と言えば当然だ。竜という存在は太古から存在していた、空想上として語られていた生物である……ということを念頭ねんとうに置けばいい。

 自身が空想で語られていたということがある以上、自身の攻撃はとても強いものだと認識しているのが空想で語られていた生物達だ。そのお強い攻撃であるブレスを切ったらどうなる?

 …………自身の攻撃が避けられるわけがない!攻略されるわけがない!意味がわからない!…………などと弱腰よわごしモードになる。

 だからこそ、最初は感じていたはずの敵意が薄れて、そこから真意が見え始めてくるのだ。


「……………………お前は、可哀想な奴だよ。急にこんなところに監禁されて、攫われたんだろうな。不安が残るのもわかる………………だが、それでも…………お前は多分薬を投与されているだろう?」


 そんなことを言うと、こちらのことを驚いた表情をして見つめる。

 大方、龍公国の親日感情をよく思っていない、反親日感情をいだいている他国の介入だろう。この組織に預けて爆発しようと……ブービートラップだな。

 確かに効果的かもしれないが、非人道的な行為であり、赦されざる行為であると言わざるを得ない。

 だから俺はこの子に…………引導を渡さなければならない。

 戦った俺だから分かる。ブレスがまだ子どもの龍のそれだった。そんな子どもを殺さなければならないと言うのが、残念でならない。


「……………………苦しまずに、一撃だけ入れる」


 俺はそう宣言すると、力を溜めるポーズをするが、龍はそこから一歩も動かず、冷静な面持ちだ。

 自身の死を受け入れるというのか…………!?まだ年若き龍なのに、威風堂々たるその立ち振る舞いに感極まりそうになる。

 またこの研究施設を破壊する理由ができた。ここは…………跡形もなく消す。絶対に許されない行為をこいつらはしたんだ。

 決意を固めている内にナイフに力が溜まりきった。…………俺は苦々しい表情をしながら切先を向けて告げる。


「………………さらば!威風堂々たる龍よ!」


 狂歌きょうかという技は、【強化】しきったナイフで振るうことで生じる音が、歌の様に聞こえる様から考案された、音波攻撃である。

 そうすることにより、の龍の体は傷つけられることなく、名誉を守れたということだ。

 …………!?まずい、ここから退……

 強烈な破裂音が鳴り響き、あたり一体を吹き飛ばすほどの衝撃で、俺の意識は途切れた。

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