第28セルフィル=ハイブルクは強引で正当な簒奪者


貴族法214条

エルセレウム王国全貴族の合意を得た者は最高権力を有す。


 これを最初見た時、作った奴はアホじゃねと思った。


 他の法に隠れるようにあった、たった一行の国盗り法。


 調べてみたらほぼエルセレウム王国ができた頃に作られたものだった。

 三代目の王がちょっとやんちゃ坊主だったみたいで、まだまだ国内に目を向けなければいけない所を隣国を攻めることで国民達の支持を得ようとしていた。

 それがある日を境にピタリと抑えられて内政に精を出している。

 それが貴族法214条が施行された月からなのだ。


 たぶん当時の貴族達がキレたんだろうね。

 まだまだ国として小さいのに現状を理解できない三代目ボンボンを黙らせるために作ったのだ。

 貴族の数も少なかっただろうから全員集めて脅した。そして実行されていたら三代目は殺されて初代の血を受け継ぐ者が四代目国王になったのだ。

 味方全員から三行半を突き付けられた三代目は恐怖しただろうね。

 王を正す為だけに作られた行使されることない法が貴族法214条なのだ。


 いや本当にこの法を作った奴は必死で考えたんだろうね。

 だって国が栄えたら貴族は増えてこの法は絶対に行使されなくなるから。

 実際に貴族というのは当主だけだ。その身内は世間的には貴族だけど厳密には貴族ではない。爵位持ちが貴族なのである。

 今のその当主だけでも百ではすまないだろう、そんな数で全貴族の合意なんて絶対に無理なのだ。

 天才ではないが後のことも考えているいい法なのである。


 だから国が安定しても法を消すには面倒臭い手続きがいるので残り続けていた。

 でもね、シンプルだからいくらでも拡大解釈される法なんて残していたらダメだよ。

 特に一騎当千みたいな人が現れる可能性があるのこの世界では絶対にダメ。


「というわけで王様、只今より僕がこの国で一番の権力者になりました」


 ムンッと胸を張るよ。

 グリエダさんに後ろから抱きしめられているからお山に後頭部がメテオストライクするのはお約束。


 俺の言葉がわかっていないようでポカンとしている愚王様。

 う~ん、ちゃんと言葉を話してください愚王様。あ、愚王だから言葉が使えないのかな?ショタは愚王語は話せないのごめんね。


「貴族法214条、エルセレウム王国全貴族の合意を得た者は最高権力を有す、を行使したんですよ。わかります?シンプル過ぎて僕もこれ以上わかりやすくは・・・お前の権力全部僕が頂きました?」


 そこまで言葉に表現力持てないんですよ。貴族としては不適格で困っちゃう、グリエダさんも最終的に拳で語ろうかタイプだし、今度レアノ様に教えてもらおうかな。


「さ、」

「さ?」

「簒奪だあぁぁあっ!!」


 愚王が俺を指差して叫ぶ。


「はい、そうです」


 あーうるさいなぁ。

 不摂生な中年の叫び声は本当にうるさい。

 神様、チート能力でこういう時に猫耳の女の子に見えるフィルターを付けてくれませんか?

 いやできることならこう中性的な女性の方が好みなので・・・うん、覇王様がいるからいらないや。


 俺は愚王から王権どころか国のすべての権力を簒奪する。


 俺が214条を行使することを知っていた元宰相達以外の貴族がざわつく。理解できた者、出来なかった者それぞれだが全員が動揺しているのは間違いない。

 長兄達は・・・沈黙を貫いてくれている。元宰相にでも聞いたのだろう。


「さて、どうせ聞いてくると思うので先に言っておきますが、全貴族の合意は先ほど取れましたのであしからず」

「は?」


 いちいち問答するのは面倒臭い。

 だって敵だよ?世の中の主人公や大ボス様、言いたいことだけ言って倒せばいいじゃんと思います。相手の言い分や疑問なんて勝てば意味の無いものなのよ。


「貴族法15条、王が呼集した場合は貴族の最大人数はその場の人数に固定される、というのがあってこの夜会に呼ばれた貴族が全貴族になるんですよね」


 実際には限定的にというのがあって、戦時とか緊急時にしか当て嵌まらない法だ。

 だから今回の夜会は実際には全貴族になるかというとかなり怪しい。

 でもそんな法律を全て覚えている人なんて元宰相ぐらい?でもその元宰相が俺の簒奪を黙認しているんだよね。


「緊急時にしか適用されないとか言うのなら緊急時にしましょうか」


 逃げ道を無くして思考を何も考えられない袋小路に追い詰めてあげよう。


「セイレム公爵の子爵への降爵に、アレスト女辺境伯の爵位剥奪。これらがどれだけ国の存亡に関わるか、愚王貴方には聞きません。愚王についた貴族の皆さん、さすがにわかっていますよね?」


 愚王はどうせ理解できないしね。じゃあその下の人達に聞くしかないじゃない。

 その答えは全員が態度で示してくれた。アガタ公爵にランドリク伯爵でさえもだ。

 沈黙、それは貴族では肯定と言える行動だ。

 味方全員が敵である俺に賛同する光景に驚愕してくれる愚王と側妃。

 いいねぇ、その顔は間抜けすぎて最高だ。


 これにはちょっとした小細工が入っているのは内緒だ。

 全員の代行ピアスを俺が握っているから、そりゃ逆らうようなことはできない。そこを気づかないからこその愚王なのである。


 まあ貴族院をないがしろにした時点でかなりの人数が愚王から離れたと思う。

 貴族を管理、そしてその地位を守る貴族院を通さずにセイレム、アレストへの愚王の所業は、そのまま味方であるはずの自分達にも行使される可能性があるのだ。そのくらいは気づかなければ利益ばかり欲しがる貴族ではいられない。

 味方をドン引きさせるとは裏目魔法バックファイヤー炸裂だ。


「あなたのおかげでこの会場にいる者達だけで全貴族ということになり、その代行権であるピアスを全て受け取った僕は貴族法214条を行使でこの国で一番の権力持ちになりました」


 二つの法と代行ピアスでお手軽国盗りです。

 覇王様の暴力を皆が見て恐怖していなければ出来なかったことだけど、まあそこは裏目魔法バックファイヤーの効果もあったのかも。

 本当に調査してみようかな裏目魔法。


「グリエダさん愚王と側妃を拘束してもらえますか。あと喋れないようにしてもらえるといいです」

「ん、わかった。おいっ」


 何か叫ぼうとした愚王を遮ってグリエダさんにお願いする。

 彼女はすぐに家臣の爺さん貴族達を呼んで愚王達を拘束していった。

 ロープなんてないからそこら辺の飾り付けの布を裂いて紐状にしていくアレスト家の爺さん達。

 それを見て王妃様とお付きのメイドが悲鳴を上げている。高かったのかな?まあ必要投資ということで。


 そして出来上がるまな板の上の愚王と側妃。他の生き物には例えないよ、だって愚王並されたら可哀想じゃない。


「むーっ!」

「むーむー言われてもわかりませんから、そこで自分が全否定されるのを見ていてくださいね」


 むむっ、なぜ愚王が亀甲縛りになっているの?先祖から伝わる縛り方だって?あとでお話聞いていいかな。絶対にそのご先祖様は変態な日本人だよっ。

 あと何故にオッサンの愚王なの?側妃の方がいい・・・いや、地味に気持ち悪いモノを見そうだ。


 ピチピチとのたうち回る中年カップルは見えるところに置いてもらう。

 だってこいつらのせいでやらなくていい事をやる羽目になったんだから絶望していくところを見たいじゃない?

 普通なら王とその側妃に対しての暴挙だがあいにくと俺はすでに簒奪しているので呵責なんてないよ。元からないけど。


「まずは愚王、あなたの全権の停止をしましょうか」


 最初にその口から発する言葉は無価値にしてあげよう。

 動くことも喋ることも出来ないけど万が一猿ぐつわが外れたら何を言うかわからないからね。


 さすがにこれからすることにグリエダさんの装備品では恰好つかないので降ろしてもらい貴族達の方を向いて、グリエダさんには横にいてもらう。

 うん、腕を組もうとしないでください。

 合わせるためにはショタの1.23倍になる魔力を使わないといけないの。


 ・・・手を繋ぐのも幼い王の代わりにグリエダさんが政治を執り行うって感じがしません?

 まあ甘えん坊な覇王様の我が儘なので叶えてあげよう。おっと装備(抱き抱え)はいけませんよ。


 さてさて王の発言は止められたけど俺が国の頂点というのを会場全員に認めさせないといけない。

 だって一応正当な法を使って、貴族の命に近いピアスを確保しても、王を害して簒奪したことは事実だ。

 味方の三家からも反発が出るだろう。

 だから俺に来ている流れを止めずに短時間で終わらせる。


「ボルダー侯爵、ヒルティ子爵」

「「はっ!」」


 すぐそばにいていくれてよかった。

 もしかして俺に呼ばれると思ってマトモハリー嬢について来たのかな。


「君達は僕の簒奪を認めるかい?」

「エルセレウム王国の為なら認めましょう」

「我が子の愚行を止めてくれた御方に従います」


 俺に深く頭を下げた二人。


「ではアガタ公爵とランドリク伯爵の二人の任命を無効にする。そしてボルダー侯爵は宰相に、ヒルティ子爵は騎士団長に任命する」

「「はっ!任命承ります!」」


 罷免された二人が何か言おうとしたがGSゴールデンスマッシュを一振りしてグリエダさんが止めてくれる。

 甘い。ここでごねれば俺の正当性に疑問が出るのに。

 グリエダさんが奴らに危害を加えたらさらによし。

 まあそういう覚悟が出てこないから愚王についたんだろうけど。


 宰相と騎士団長が俺とグリエダさんの両隣についた。

 国の文と武のトップが俺を頂くに値すると認めた瞬間だ。


「さて、この会場にいる貴族の皆様」


 トップだけでは半分、後の半分に認めてもらおうか。


「僕は王から最高権力を簒奪しました」


 おおっと、王家派からだけでなく三家の方からも強く睨まれているよ。敵対していた連中はしょうがないとしても味方の方は十三歳が動くことになったことを恥じて欲しい。うん、顔は覚えた。名前は知らん。


「だがこの国を愛する故に起こした行動です。この夜会が終わるときには王家に全て返しましょう。そして皆様からお預かりしたピアスもお返しします」


 う~む、一部以外嘘と裏があるのは心が痛むなー。


「どうか貴族院をないがしろにし、貴族たるあなた達を害する暴君になろうとしていた王様を正す時間を僕にくださいませんか」


 だから沈黙は肯定になるって親から習ってないの?

 このあとは何を言っても俺は拒否するから最後のチャンスだよ。

 そしてグリエダさん、あなたは俺と一緒に頭を下げなくてもいいんですよ?


「ハイブルク家は従います」

「セイレム家も従います」


 長兄とセイレム公爵が素早く援護射撃してくれた。

 どうしてあとで説教だという目で見るのですか長兄。

 皆おれたちが勝利者になる最短を目指しただけなのに酷いっ。最高権力でイタズラしちゃうぞ。


「もちろん私も君に従うよ」


 アレスト家はグリエダさんに従うし、貴族の中で発言力がある二家が俺に頭を下げれば後はドミノ倒しのように続いていく。


 ねえそこで転がっている愚王様。

 あなたの味方は俺の下についたよ。どんな気持ちかな。

 でもまだ絶望してもらうよ。


「皆さまの支持を受けれたので、ひと時ですが最高権力者として動かせてもらいます」


 残念でもないが王とは言わない。ここ重要です、あくまで俺は貴族の代表として214条を行使した者なのだ。

 誰か気づくかな~、長兄、セイレム公爵、アリシアさんは反応した。宰相と騎士団長もだ、後は数人かな。

 残念なことに愚王派には誰もいなかったよ。


「ボルダー宰相、僕は貴族院を認めています。僕の発言に貴族法を無視したものがあったら教えてください」

「わかりました」

「ヒルティ騎士団長、僕が国の為に動いていないと判断したら切る権利を与えます」

「・・・承知しました」


 二人には自分の息子達が犯した罪を国の為に働くことで償ってもらう。

 俺が自分の不利になるのに関与させる権限を与えたのはわかるよね。今後上が問題起こした時は死ぬ気で止めろと暗に伝えているんだよ。


「さて僕は大したことはしません」


 大丈夫だよ~そこまで酷い事はしないよ~。ただ目的のついでに愚王をいじめるだけだからさ。


「まずそこに転がっている王が今日の夜会で発言したことを全て無効にします」


 なに驚いているの愚王?

 すでに宰相と騎士団長はあなたの任命したのを無効にしたよ。なら他のも無効にするに決まっているじゃないか、上書きなら紙に残るかもしれないけど無効なら元々なかったことになるからね。

 そこら辺は宰相にお任せだ。

 息子が足を引っ張らなければちゃんと働いてくれるだろう。


「ジェイムズ=エルセレウム王子の罪はそのまま、その側近達もです。無効にしたので王太子を僭称した罪はありません」


 真っ白になった王子には聞こえていないが、その婚約者の無嬢はホッとしている。連座で罪になるからね。でも甘い。


「ただしあなた達は処遇が決まるまで謹慎処分中のはず。ここにいるのはそれを破っていますので刑罰が重くなるのは覚悟してください」


 無効にはしたよ?でも婚約破棄の罪は夜会とは別なので逃亡したと判断されるよね。


「あとア、ア、」

「アガタだ」


 グリエダさんが小さな声で教えてくれる。

 うん知っているよ。さっき父親を呼んだから覚えたの、でもずっと無嬢と心の中で呼んでいたから齟齬が出てしまっただけなの。本当だよ。


「アガタ公爵令嬢、あなたは夜会が始まる前に事前に王子と婚約していたみたいですね」


 聞いているよ~、聖女が側室で入るのなら事前に愚王と話はつけているはずだよね。


「そ、そんなことは」

「ではヒルティ騎士団長、王の部屋を調べて下さい。婚約した書類が見つかった場合はア、アガタ公爵令嬢の罪をさらに重いものに変更で」

「ヒッ!し、しました!三日前に王に父と一緒に呼ばれて婚約しましたぁっ!」


 ア、ア、ダメだ無嬢が脳に記憶されている。


「では罪人の王子の子を妊娠している可能性があるのでしばらく監禁を」

「へ?」


 なにを言われたのかわかっていない無嬢。

 やはり無能公爵令嬢だったか、第一王子は罰をうける罪人だよそんな奴の子供がいたら国としては困るじゃないか。数日とはいえ婚約者ならそういう関係もあると俺は判断するよ。


「アガタ公爵には簒奪の疑いがあります。こちらも拘束してください」


 もちろん親も〆るさ。

 無能な公爵もこれからのエルセレウム王国にはもういりません。

 代行ピアス?もちろん返すよ。

 全員の力を削いでからだけど。

 愚王についた皆様、なにを驚いているんですか。

 あなた達は俺に敵対したグループなんですよ。そんな奴に自分の命運を任せるなんて奇特な方達だよね。


 騎士団長が兵を入れていいか聞いてきたので許可しない。

 それかなり困るので、だって一人でも爵位持ちが会場に入った時点で俺の権力は空気より軽いモノになるの。

 214条はシンプル過ぎていくらでも拡大解釈できる代わりに些細な事で破綻する法なのだ。

 宰相は俺がかなりヤバい綱渡りをしているのがわかっているはずだ。でも国から膿を出すいい機会を逃すことはしない。

 どうして息子はあんな風になったの?


 長兄とセイレム公爵が家臣を数名出してくれて二人を拘束してくれる。アレスト家の爺さん達は武力で逃げないように威圧してもらっているからあまり動かせないからよかった。

 自分の未来が絶望しかないことを完全に理解した無嬢は号泣、父親はなんだこれは?夢か、夢だよなとかブツブツ言っている。


 さて一組目は終了。

 王子達はどうなるかな、側近は親が処分するだろう。だってセイレムとアレストに喧嘩うったバカだよ。今殺してやった方が温情だっただろう。

 王子にグリエダさんのパンッはもったいない。

 アレの処置は生き地獄らしいからゆっくり味わってくれたまえ。

 運よく教会に入れたら会いに行くね。ちょっと引導を渡さないといけない人に挨拶しにいかないといけないから。

 あと罪人だけどまだ王子だから処罰すると騎士団長が剣を腰だめでタマ取ってやりゃーっ!来そうで怖い。


「というわけでもちろんランドリク伯爵は国防の危機を招いたので処罰します」


 気分を変えて次は小デブなランドリク伯爵ちゃん。

 焼いたら脂ばかりでそう。


「なっ!わ、私は何もしておらん!それに王の側妃が娘なんだぞ!」

「はい何もしなくなったが正しいですよね。アレスト辺境領への荷止めと増税は国家反逆罪にでも・・・」

「セルフィル様、そこまではいきません」


 娘のモノは俺のもの伯爵を追い詰めようとしたら宰相からまったをかけられた。

 なになに領地持ちの貴族の裁量権から考えるとありうることなので、よくて通常の状態に戻すことぐらいらしい。

 あ~たしかにこのくらい他の貴族もしているもんね。

 でも側妃にあと王子と王女の二人がいるから戻したぐらいじゃ絶対にしばらくしたら今日のこと忘れて何かしでかすよね。

 よし後で泣きついてくるようなことをしてあげよう。


「セイレム公爵、王が子爵に降爵しようとしていましたが私がそれを取り消しました」

「は、感謝の念に堪えません」

「ではハイブルク公爵と連携して辺境の地を守るアレスト家を助けていただけないでしょうか」

「おおっ!それはこちらからお願いしたいことでございますっ」


 この昭和男前はノリがいいと思ってたんだよ。忠義はある普段は子供の相手をしてくれるような。

 そして領地持ちの大貴族としての金の生る木を嗅いで探す力もあるだろう。


「ハイブルクは食料面でお助けできます(セルフィルてめー絶対に噛ませろよ!)」

「それは嬉しいです(義兄ありがとうございます)」

「はっはっはっならセイレムは衣料や資材ですかな、あとは武具など(うちはこのくらいだすけど利益は?)」

「ああっ!お二方の御援助があれば平原の騎馬民族を押しやって、その昔良質な鉱石があったとされる山まで我が領にできます(うちは武力特化なので鉱山の運営はまかせても?)」

「「おおっそれは素晴らしいっ!(是非とも噛ませてっ!)」」


 二公爵と一女辺境伯が裏で取引しているの。

 僕いらない子なの?

 寂しいからそこでやっちまったなみたいな顔をしている時勢も読めないお間抜けな伯爵で遊んでいい?

 あ、宰相と騎士団長まで未来の鉱山に噛もうとしている!

 いいもん。小デブ伯爵をプチプチして暇つぶしするよーだ!


「さてランドリク伯爵」

「あ、わ、私の領地も・・・」

「これからアレスト家はセイレムとハイブルク、宰相達がその国防の助けをしてくれるようだ。隣の領地として苦労していたのは解消されたみたいだね」


 ニッコリ笑ってやる。


「これからはいくらでも荷止めや税の値上げをしてください。あなたの領地を通らなくても困らなくなったので」


 まだ二人いる王族の祖父?落ちていくしかない王子と王女に擦り寄るのはよほどのアホな貴族だ。

 はっはっはっ一大交易からハブられた土地に誰が行くのかな?

 何年持つのか楽しみにしておこう。

 味方の貴族達で何年保つか賭けてみようか?配当金は伯爵領を分割してお支払いというので。あとで長兄にお話ししよっと。

 俺は罰していないけど自業自得のセルフ地獄行きの子豚伯爵だ。


 さてさてやることが多くて疲れるなぁ。

 あとは王家派と側妃派の貴族達か・・・メンド。

 宰相宰相、未来の利益に夢中にならないでこっちに来て、息子さんのことでセイレム公爵に便宜を図ってあげるから。


「あいつら潰すと問題起きるよね。貴族院からも猛反発が起こるだろうし」

「まあ起きますが十年ほどで落ち着くかと」

「僕今限りの最高権力者だよ。十年ぐらい恨まれて過ごさないといけないの?」

「もうかなり恨まれていると思いますが。そうですなこちら寄りの新しい旗頭がいればかなり落ち着くと思います」

「・・・その旗頭はちょうどいますねぇ。後で全部任せようと思っている人なんですが少しぐらい派閥があってもいいでしょう」


 誰を?と聞かれたけど後々、その前に今の旗頭をどうにかしようか。


「王様王様、助けてくれそうな人達はあなたが夜会でしたことを無効にしたら全員いなくなりましたよ」


 ムームー元気にのたうち回る愚王に話しかける。

 不思議ですよねーと可愛く首を傾げても凄い目で睨みつけてくる。

 お隣の側妃様はお父様が真っ白になって燃え尽きたら大人しくなったのに元気な中年だ。

 その耳元に顔を近づける。


「別に俺は権力も権威も何も欲しくなかったんだよ。それなのにどうしてお前を追い落とすようなことをしていると思う?」


 疑問の顔を浮かべる愚王は俺の顔を見て目を見開きガタガタと震え出した。


「俺の女から身分を剥いだな。そして他の男にくれてやると言ったそうだな。なあ一度も自分で成したことが無い愚王、先王の残してくれたものを自分の力と勘違いした愚者、どうすればそこまで無知でいられるんだ?」


 グリエダを不安にさせないように余裕を持っているように笑っていたが愚王しか見ていないなら素の顔でいても大丈夫だろう。

 あ、側妃が俺を見て気絶しやがった。失礼な奴だなこんなに可愛い顔なのに。


「さんざん彼女に脅されたろう?献上?下賜?その頭はおかしいのか?身分が平民になってもあの力は変わらないんだぞ」


 本当に頭を開いて見てみたいよ。たぶん紫色の脳なんじゃないかな。

 理解はもう求めないよ。でもこっちがどうしてこんな強引な簒奪をしたのか教えてやりたかった。


「お前は彼女を欲しがった、それが許せない。お前が彼女の名誉を傷つけた、それが許せない。だから先王がお前の為に残してくれたものを全部剥ぎ取ってやる。だからお前がしようとしていた愚かな行為は全て俺が塗りつぶしてやる」


 愚か者は王という名の無価値なものにしてやった。

 それだけじゃグリエダの分だけだ。

 俺のいらだちの分で地獄に落としてあげよう。なにちょっとした嫌がらせみたいなものだ。


 振り返り会場の貴族達に身体を向ける。もちろん顔は笑顔だ。


「皆さん聞いてくださいっ!王は今回の自分の行いを深く後悔されたようです!」


 愚王は拘束された身体を必死に動かして否定しようとしている。

 いいよ猿ぐつわを外してあげよう。


「嘘だっ!余はそんなことを言っておらぬっ」

「あなた達を混乱させ、国を乱そうとした王は側妃と共に城の奥に籠られるそうです」

「聞くな!余は正しい事をしたのだっ。なぜ王が我慢せねばならぬ。余を助けよっ!褒美は望むがままぞっ」


 愚王の言葉に動こうとした貴族が数人いた。


「グリエダさん」

「なんだい?」


 領地のことを途中から長兄達に丸投げにしていたグリエダさんを呼び寄せる。


「槍を全力で正面扉に投げて下さい」

「ん、わかったよ」


 彼女は何故とは聞かずに俺の言葉に従ってくれた。

 動きにくいドレス姿で限界まで足を開き、槍を持った右手は弓の弦を引き絞るように後ろに伸ばされる。

 銀髪が少し横に流れて開いた美しい背中が目の前に現れた。

 戦乙女とはおそらくグリエダさんのことを言うのだろう。


「耳を塞いで」


 俺にだけ聞こえるようにグリエダさんが言った。

 反射的に耳を塞ぐと同時に彼女の右半身が無くなる。

 いや投げる速度が速すぎて投げるモーションが見えなかった。

 ただフッと息を吐いたのが塞いでいるのに聞こえたように思え。


 ドガンッ!!


 もの凄い破裂音が会場に鳴った。

 戦乙女に見惚れていた貴族が音の鳴った正面扉を見ると、しっかりと締まっていたはずの扉が無くなっており、噴煙が立ち上っていた。

 少しホコリが晴れてくると分厚い扉は左右で蝶番が外れて廊下側に倒れていて。


「うん?吹き飛ばしただけになってしまったよ」


 俺がゴールデンスマッシュと名付けた槍は廊下の壁に半ばまでめり込んでいた。


 ・・・扉に刺さるぐらいだと思っていたら扉は吹き飛ばされました。そして槍は刺さるのではなくめり込んでいます。

 あと姿は戦乙女、中身は覇王様は扉を粉砕するつもりだったみたいです。

 俺老衰まで生きれるのかなぁ。


 いかんいかん、ちょっと覇王様が予想以上だったけどこれはこれでオッケー。

 ようやく完全にグリエダさんをなめてかかるような奴はいなくなっただろう。

 戦乙女に見惚れ、覇王様に恐れろ貴族共よっ!

 俺の婚約者だから手を出したら本人が殺るからなっ!


「さて何か王様が言っておられましたが皆様何と言っておられたか聞こえましたか?聞こえていた人がいたらもう一度その身で扉と同じ体験をしてから教えてくれませんかね」


 うん誰も聞こえなかったみたいだ。

 やはり一番の脅しは圧倒的な暴力だよね。


「誰も助けてはくれませんね王様」

「・・・」


 唖然としている愚王には俺の言葉は聞こえていないようだ。

 グリエダさんに驚いているのか、見捨てられたのにショックを受けているのかちょっと判断できない。


「正しい事をした?あなただけの正しさでしょう。ほとんどの人が迷惑です。なぜ王が我慢せねばならぬ?王は国の為に生きているんですよ。王の為に国はありません。余を助けよ、褒美は望むがまま?褒美なんて出す気ないくせに」


 現実を愚王と侍ろうとしていた貴族達に教えてやる。


「中身が無い愚かな王は首だけの価値しかありません。愛する側妃と二人っきりで生きて下さいね。宰相、城で二人だけでいられる場所に閉じ込めて下さい。そして真実の愛を貫いた年月分、平民の最低の生活で暮らさせてください」


 俺の言葉に酷いや残酷など言葉が飛び交った。

 宰相さえもそれはさすがにとか言っている。

 騎士団長、その持っている剣を抜いたらあなたに幻滅するし、たぶんグリエダさんにパンッかドガンッされるから止めた方がいいよ。


「なぜです?この二人が真実の愛に目覚めたせいで、国の運営は滞っていますよね。国として象徴たる王は必要ですが、ただ自分達の我欲だけに生きる生き物はいらないんですよ。ねえ無能を放置し続けて愚王にした貴族の皆さん」


 自覚ありますか~、危うく亡国にするところだったんだから。


 本当に先王は頭が良かったんだろう。

 本来不満があれば力の無い王なんぞヒャッハーする貴族がずっと大人しいままでいて、いまだ愚王を擁護している。

 さすがに孫のやらかしまでは対処できなかったみたいだが。

 ・・・ああそのためにあの人がいたのか。

 よしっ!すこし方針変更だ!


 愚王の処遇を決める人はあの人しかいないだろう。

 たぶん俺達よりも残酷だと思うよ。



ーーーーーーーー

権力者ショタ「愚王達多すぎ」

機嫌良い覇王様「セルフィルが国の頂点か~♪」


長い(;´д`)

潰す相手が多い(;´д`)

力尽き(〃_ _)


次からざまぁするのは一人に絞ろう(;´д`)

グリエダが騎士団長の息子に嫁がされるというところでショタを夜会に登場させて国の頂点にさせようかと思いついた過去の筆者をぶん殴りたいですι(`ロ´)ノ


初期はグリエダがその覇王様でただぶちのめして王妃と一緒にいるセルフィルをタキ○ード仮面みたいに迎えにいくだけだったのに・・・(;´д`)


もう一話、長くなったのでわけました。今日中に投稿しますm(__)m

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