17 仮眠

 ナツと交代したハルは、早速仮眠室に入った。最初のうちは効果的な仮眠ができず、辛い思いをしたが、いまでは自分のルーティンができて、疲れがよく取れるようになった。

 まずは今日の体調から仮眠時間を考える。例えば、ふらふらの状態で歩くのもやっとという時は、すぐにベッドに入り、なるべく長い時間寝るようにする。一方、そうでも無い時は、軽いストレッチを加味した仮眠をとる。

 まずは着替えだ。以前はそのまま寝ていたが、それだと充分にリラックスできず、あまり効果がなく、ゆったりとしたパジャマに着替えるのだ。この時点で眠気があればそのまま寝るが、ほとんどの場合はなく、ここからがリラックスタイムの本番だ。元々照度が落とされている照明をさらに暗くし、間接照明の優しい明かりにする。次に、ほどよい温度のハーブティーを飲む。これで副交感神経が刺激され、心地よい気分になるのだ。


 そしてハルは、仮眠室に用意された小上がりにゆったりと座り、静かに心を整えて瞑想に入る。まず、背筋を伸ばし、姿勢を整える。そして目を閉じ、深い呼吸を始めた。自身の心を鎮めるために、息を吸うたびに気を取り、吐くたびに不要な思考を手放していった。

 次に、心の中で数えながら、深く静かな呼吸を続ける。自分の呼吸に集中し、それによって心と身体を一つに結びつけることを感じた。心の波が穏やかになり、思考の渦が静まっていく。

 ハルの心は騒がしさを離れ、静寂の中に浸っていった。外の世界のざわめきや思考の渦は、彼の内なる静けさによって一掃されたかのようだった。瞑想は深く集中され、自分自身の内なる光に目を向け、心の奥深くに潜む真実を探求していった。

 時間が経つにつれ、瞑想は次第に深まっていく。心は静かな湖のように澄み切り、思考の波は一掃された。自分の内なる声が次第に響いてくる。

 自己との対話を通して、過去の出来事や現在の感情に向き合った。苦しみや悲しみ、喜びや愛に囲まれながら、それらをただ受け入れることを学んでいった。

 心の深部で、内なる平安と調和を感じた。この瞑想は、心のバランスを取り戻し、心身の疲れを癒す力を持っていた。

 やがて、ハルは瞑想から目を覚ました。部屋には静かな空気が漂い、彼の心は清らかな光に包まれていた。彼は深い感謝の念を抱きながら、ゆっくりと立ち上がった。

 ハルの瞑想はまるで美しい舞踊のようだった。心の底から浄化され、内なる静寂が彼を包み込んでいた。

 数分間の瞑想は、数時間分の睡眠に相当するとも言われている。心が穏やかでないときは、ゆったりと熟睡することもできない。まずは心を落ち着かせてから寝ることで、最大の効果が得られるのだ。

 また、どうしても眠れないこともある。そういう時は眠れないことに対する不安に駆られてしまうが、瞑想をすることでそれも軽減できる。だから、このルーティンを崩したくはないのだ。

 今日は良く寝れそうだ。ハルは穏やかな表情を浮かべながら、仮眠用のベッドに身を委ねた。


 17:00、たっぷり1時間半の仮眠をとったハルは目を覚ました。これで深夜1時まで及ぶ乗務に耐えれそうだ。

 再び制服に着替え、仮眠室からメタ・エントランスへ出るとアキがいた。

「お目覚め?」

「うん、よく寝れたよ」

 それから2人は他愛のない会話をした。

「そういえば、次のシードームはいよいよゴルか」

 ハルは運転状況を示すモニターを見ながら言った。あと10分くらいでゴルのシードームに入る。

「そう。だから今から緊張するのよね。一応、この列車にはマドレーヌさんたち、海底連邦政府の人も乗っているけど、それが逆にトラブルになっても嫌だし…」

「マドレーヌさんたちには会った?」

「うん。さっきメタ空間の会議室に来てもらって、そしたらルブラン枢機卿が何かあったら私たちが対応するので、すぐに言ってくださいって言ってもらえたから心強いんだけど。そうは言っても、一応は皆さんお客様だから、まずは乗務員である私たちが対応すべきなのよね」

「まあ、なんかあっても、俺たちだけで対応しようぜ」

 いつの間にかフユがいて、会話に参加してきた。

「あれ、フユ、寝なくていいの?」

「ああ、もうよく寝たしな。それに列車の安全を守ることも大切だ」

「私たちは2人ともここにいるから、今度交代した時にすぐに言ってね」

「ありがとう。そろそろシードームに入るし、僕も運転室にいるね」

「ええ、気をつけて」

 ハルは運転室に向かった。

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