11 仮眠
21:55、「あー、眠い」と大きなあくびをしながらナツがやってきて、助士席に座った。
「大丈夫?これから3時間だよ」
「大丈夫、眠いは口癖みたいなもんだし、やることもいっぱいあるから」
「やること?お店のこと?」
「うん。サイトのデザインをリニューアルしようかなって。それやってたらあっという間に時間も過ぎるのよ」
「なるほど。それはいい暇つぶし」
「アキがいたら、仕事中に何やってんだって言われそうだけど」
「別にいいんじゃない?ちゃんとやるべきことやれば問題ないっていう契約だし、暇で居眠りしちゃう方が問題だし」
「…そうよね!うん、堂々とやるわ」
「いや、それはどうかと…」
「冗談よ、冗談」
「そう信じてるよ」
「もう…。あ、時間」
「おっと、そうだった。じゃあここまで異常なしだね、おやすみ」
「おやすみ」
22:00、ハルがメタ・エントランスに行くと、アキは相変わらずパソコンに向かい合っていた。
「やあ、まだ仕事あるの?」
「あらハル。そうなの、今週中に出すレポートを忘れててね」
「マネージャーも大変だね」
「そんなこと無いわよ、私からすれば運転も大変そうだし。運転はもう終わったの?」
「うん、これから寝るよ。アキもあんまり無理しないで」
「ありがとう、大丈夫よ。レポートも大した内容じゃないし、フユが起きたら寝るから。おやすみ」
「おやすみ」
アキにそう告げると、ハルは奥の扉から仮眠室へ向かった。
仮眠室はベッドと目覚まし時計だけのシンプルな部屋だ。あくまでも寝ることだけに特化していて、睡眠を妨げるような余計なものは無い。入り口のボタンを1回押せば、清掃とベッドメイキングをしてくれる(最もメタ空間の部屋ならばどの部屋にでもあるシステム)。部屋を見て、ポケットにあるスマホなどを投げ置いたハルは、そのまま奥のシャワールームに向かった。
いつもの温泉でも良いが、それだとつい長湯してしまうため、こっちで済ませることが多い。脱衣室には瞬間洗濯機があり、服を全て入れたハルはシャワーを浴びた。
「はぁ…」
思わず溜め息が出る。温かいシャワーを浴びるとホッとする時は幸せな瞬間だ。
ものの数分でシャワーを済ませ、髪を乾かし部屋に戻る。脱衣室にはガウンも用意してあるからそれを着て、着ていた衣服はそのまま持って帰る。いつもと何一つ変わらないルーティンだ。
乗務中の仮眠は大切な要素だ。少しでも自分に合った効率的な睡眠で疲れを取るために、各人が工夫をしている。ハルは1分でも長く寝たい派なので、シャワーなどを極力短く浴びて寝ることにしている。一方でアキは、90分サイクルで寝た方がスッキリ目覚めやすいという理由から、湯船に浸かり、寝る前に白湯を飲み、身体を温めてから寝ることにしているようだ。
ハルも一度はそれを試したが、やはり長く寝たいと感じたため、元のやり方に戻した。
ただ、寝る前に白湯を飲むという習慣はその時からずっと続けている。シャワールーム横の洗面所にはウォーターサーバーが設置されているので、そこから白湯を入れ、ゆっくりと飲み干した。そして、歯磨きを済ませ寝る準備を整えたハルは、目覚ましをセットし、ベッドに潜り込んだ。
時刻は22:25。運転開始の30分前、3:30に起きる予定だから、ちょうど5時間くらい寝れる。ここであれこれと考え事をしていると寝れなくなるから、頭の中の雑念をそっと逃すように、ゆっくりと、禅の呼吸をしつつ目を閉じる。幸いなことに、今日はすぐに眠気がやってきた。ハルはそのまま眠りに落ちた。
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