ラッキー7の男 【 20236 】

mono黒

ラッキー7の男

毎年欠席していた会社の忘年会。何かの予感があったのか、オレは久しぶりに参加することにした。


「おー菊池、ここ座れ!ビンゴ大会始まってるぞ!」

「ビンゴ大会?オレは良いよどうせ当たってもポテチかティッシュだ」

「今年は社長奮発したらしいぞ、なんたって一等賞はラスベガスだ」

「ラスベガスぅ〜?ははは!」


何の期待もなく、何ならバカバカしいとさえ思いながら渋々始めたビンゴ大会だったはずなのに…。


テッテレー🎶

「おめでとうございます!当たりましたよ一等賞〜!こちらへ来てくださ〜い!

ラッキーなあなたのお名前は?」

「き、き、菊池です」

「菊池さん、おめでとうございます!どうぞ楽しい旅を〜!」

パフパフパフ🎶


そしてオレはあれよと言う間に機上の人となり、いざ眩いラスベガスへ降り立った。まあこんなラッキーなことでもない限り来る事は無い場所だ。


ラスベガスと言ったらカジノだ。

オレはまずは手堅くスロットマシンからやっつける事にした。

適当に選んだ台に10ドルを適当に突っ込み、適当にパシパシパシ!とボタンを叩きまくっていると突然台がストップしてしまった。


「なに?!こいつフリーズしやがった!」


チャラリラチャラリラジャジャンジャーン🎶


ストップした台の前で怒り狂っていると、派手な音楽が鳴り響き、蝶ネクタイの男が飛んできた。


「おめでとうございまーす!」


キラキラしたおねーちゃんがシャンパンを持ってやって来た。

他の客がオレを取り巻き拍手なんかしながら興奮して叫んでいる


「congratulation!」

「you are lucky man!」


マシンを見れば「777」の数字が並び、どうやらオレはラッキー7を引き当てたらしかった。

一億円の高額当選。オレは有頂天になっていた。

日本に帰ってくると、何故かマスコミにバレていた。


「おめでとうございます!ラスベガスで本当のラッキーセブンと言う訳ですね!今のお気持ちは!」

「はあ、まあ、、」


顔出しはしなかったがインタビューで追い回されてオレは引っ越しを余儀なくされた。会社ではラッキーセブン君と言うあだ名まで付けられて、廊下を歩いただけで羞恥プレイの憂き目にあった。


「ほらほら、あれがラッキーセブン君よ」

「何だ大したことないね、案外しょぼい顔してる」

クスクス


「菊池、奢れや!」

「いや、今夜はちょっと」

「けちくせぇ〜事言うな!よっ!一億円プレーヤー」


同僚は無闇矢鱈に飲みに誘って来るようになり、友達は深刻そうな顔で金を借りに来た。


「頼む!ピンチなんだ!金を工面できないと殺される!」


そう言って金を借りたきりヤツは飛んだ。


それに今までモテたこともなかったオレに彼女候補がいきなり増えた。


「ずっと菊池君に憧れていたの!あなたのお嫁さんになりたいわぁ〜」

「ごめん、オレ、ゲイだから」

「ーーー!!!」


両親は早くに亡くなり居なかったが、知らない親戚が突然増えた。


「お前の母さんの兄の長男でお前が小さい時に…云々。云々。

だから親戚のよしみ、助けると思ってちょっと金を貸してくれないか?」


それからオレは不動産屋、保険屋、葬儀屋、墓地、あらゆるセールスマンに蜂の巣にされた。

夜道では誰かにつけられ、借りたこともない怪しげなサラ金に脅され怯えたオレは警察に泣きついた。


「助けてください!誰かにつけられたり、見知らぬサラ金から金を返せと脅されて…」

「ああ、ではサラ金は厳重注意しておきますし、取り敢えずお宅の周りの巡回を強化と言うことで」

「もっと何か他に無いんですか?!殺されてから訴えろって言うんですか?!」


ああ、何でラスベガスなんかで当たっちまったんだろう。

そしてよりによって何でマスコミなんかに嗅ぎつけられたんだ?

たかだか一億円だぞ、日本の宝くじだったらこんなに注目を浴びることもなく、何ならひっそりと静かに地味に暮らせたかもしれないのに!


こうしてオレは人間不信になり心も体も壊して仕事も辞めた。

残金は五千万を切っていた。微々たる金以外、オレは人間として大事なものを沢山失った気がした。


もうこの世とオサラバしてしまおうか。

金があってもこんな人生何の意味もない。


ラッキーセブンの男は気づけばアンラッキーセブンに成り果てていた。


最後の会社を終えた夜、オレは見知らぬ小さなバーに一人で入った。

誰もオレを知らない場所でひっそりと呑みたかったからだ。何杯か引っ掛け強か酔った頃だった。見知らぬ男がオレに近づいて来た。無意識にオレは身構えた。


「随分とお疲れのようですね…、私に一杯奢らせて貰えませんか?」


すっかり人間不信になっていたオレは警戒の眼差しを男に向けた。


「いや、結構。自分の呑み代は自分で払います!だいたい何の魂胆があって赤の他人に奢るんですか」


男は少し驚いた顔をしたがクスリと笑った。


「勿論魂胆はあります。少し憂いのある良い男だったから、ちょっと口説いてみたかったんですよ」


久しぶりに血の通った言葉を聞いた気がした。

オレが恐る恐る隣の席を勧めると男は座ってコースターにペンを走らせ名前を書いた。

良い匂いのする男は細くて綺麗な文字を書いた。


「僕は㐂元って言います。

七が三つでキモトです。変わった名前でしょう?」


㐂元…。七が三つ。ラッキーセブン。


「へえ、オレもね、ラッキーセブンと呼ばれた男なんですよ」

「ええ?どうしてですか?」


この世とオサラバしようと思った日に出会ったラッキーセブンの男。

最後にこの男に賭けてみようか。


「実はね、オレはラスベガスで一億円当てた男なんですよ」

「ええ?それは凄い」


この男もオレに小金があると知ったら豹変するのだろうか。

どうせ人生オサラバするつもりなら、オレは最後の「777」に賭けてみるようと言う気になった。


この出会いはラッキー?

それともアンラッキー?



777、了














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