友人キャラ甲子園優勝を目指す

相沢俊伸

第1話 野球やろうぜ

「そうなんだ!じゃあ、一緒に野球やろうぜ!」

そう言われたとき、急に思い出した。

自分が、子どもの頃に熱中した育成野球ゲームのキャラになっていることを。しかも、主人公ではなく、主人公の友人キャラである、畠峰行はたけ みねゆきになっていた。


今はゲームのプロローグで、中学時代は野球部だったが万年ベンチで、高校からは地学研究会に入ろうと思っていた。

最初の野球部員だったことを話したタイミングで、主人公が早とちりしたシーンだ。


「顧問のところに行って、すぐに入部しよう!」

そう言って、文字どおり背中を押してくる。


「え、ちょ、ちょっと。」

仕方なしに職員室へ向かうが、考えてみると、入部した方がいいのだろう。

この畠というキャラは他の部員よりも能力が高いし、育て方によっては、高校生なのにプロ野球選手より強くなる。


「野球、やってみるか。」

そう小さく呟きながら歩いていくと、職員室までたどり着く。


主人公がドアを軽くノックし入室する。

「すんません。野球部に入部したいんですけど、顧問の先生はいますか?」

職員室に入って目の前の席に座っている男性に主人公が訊ねる。


そういえば、主人公の名前ってプレイヤーが決めるけれど、目の前にいる主人公は、何という名前なんだろう。


「野球部?ああ、あの窓の前の席にいる、藤堂先生がそうだよ。」

先ほどの男性、眼鏡をかけた明らかに痩せすぎで50歳くらいの先生が、指で場所を指しながら抑揚なく説明する。


「あの女性の先生かな?ありがとうございます。」

そう、この高校の野球部の顧問兼監督は、女性の先生だ。確か、藤堂由佳とうどう ゆか先生だったかな。

野球の経験はないので、練習メニューや試合中の選手交代は主将に任せている。ただ、たまに本で野球のことを調べてきて、投手なら特殊な変化球を教えたり、野手なら別のポジションへのコンバートを提案してくる。失敗することもあるが、成功すればメリットは大きく、チャレンジする意味はある。


さっきの先生が指差した方に、主人公と自分は向かう。

「藤堂先生ですか?俺たち野球部に入りたいんですけど。」

そう声をかけられて、先生は振り向く。


細身できれいな女性だった。

昔はアイドルをしてました、と言われたら信じてしまうくらい綺麗な女性。

年齢は公開されていなかったので分からないが、見た感じは20代半ばくらいだろうか。


ゲームでは、野球がメインなものの恋愛要素も少しある。

ただ、登場する女性キャラの中で、藤堂先生だけは恋愛イベントがない。先生と生徒の恋愛は、禁断ってことなんだろう。


「野球部に入りたいの?まだ仮入部期間だけど、もう入るの?」

「もう決めてるんで入ります!!!」


「そう。じゃあ、入部届を渡すね。」

藤堂先生は優しく微笑んでそう言うと、机の引き出しから入部届を出して渡してくれる。


「学年、クラス、名前、あと住所と連絡先を書いてもらえればいいよ。」

そう言われて順番に書いていく。さっきは、この世界がゲームだと思い出しただけで、この世界での記憶はそのままなのだから。


1年1組畠と書きながら、隣の主人公の名前を盗み見る。

そこには、1年5組新田一智にった かずとと書かれていた。





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