【KAC20236】性癖本屋:『七人目の生贄』
@dekai3
【KAC20236】性癖本屋:『七人目の生贄』
人住む所に物語あり。
人育む所に書物あり。
物語と書物あれば、それ即ち本屋あり。
色 ア
々 本 リ
な 〼
何本も立ち並ぶ真っ白な柱に囲まれ、真っ白な床と真っ白な天井の他は外の青空しか見えない遥か空の彼方。
野球のドームの様に高い天井には、その天井一面を使った大きな絵が描かれており、その絵は聖なる者と悪なる者の戦いと、その戦いから避難する様々な種族が記されています。
暫くの間、壮大且つ美しさの溢れる天井画を見つめていましたが、ふと目を下ろすと、少し離れた先の場所に先ほどまでは無かった筈の金色の文字が浮いていました。
その文字はまるでその場にあるのが当たり前かの様に宙に固定されていて、なんと書かれているか分からない筈なのに上記の文字が書かれている事があなたには理解できてしまいます。
「
その金の文字に見とれていると、急に後ろから声がかかりました。
「
後ろを振り返ると、そこに居たのは体の半分が白い肌に金髪で、もう半分が青い肌に赤髪の白い布を纏った女性。
腕は左右合わせて四本ありますが、よく見ると片方に左手と右手がセットであり、まるで二人の人間をくっ付けたかのような外見をしています。
そして、一番目立つのは大きな眼鏡。顔の半分を覆う程の大きな丸眼鏡をかけているのが特徴です。
「
白い肌側は不満そうな顔、赤い肌側は優しい微笑みを浮かべながら彼女はそう言い、両手を天へと掲げます。
すると、天井があったにもかかわらず、どこかからか本が降りて来てその手に収まりました。
その本は何かの皮で製本されている様ですが、皮がまだ生きている動物の様に時折脈打っています。よく見ると題名らしき文字も蠢いていて、まるで何かの虫の足の様です。
「
彼女は無理やり本をこちらへ押し付け、ページを開いて中の蠢く文字を見せ付けてきました。
『七人目の生贄 作:縺九∩縺輔∪』
ある日、産まれる前の全ての者達に、大きなる者からの声が届きました。
「我に生贄を捧げよ。一人につき一日分世界を作ろう。それは大変名誉な事である」
大きなる者は、自分に生贄を捧げれば生贄を捧げた分だけ、産まれる前の彼らが産み落とされる事の出来る世界を作ると仰ったのです。
最初は何の事を言っているのか分からなかった産まれる前の者達でしたが、大きなる者は全ての産まれる前の者達が理解するまで何回も何回もその声を繰り返したので、程なくして全ての産まれる前の者達は大きなる者の言葉を理解しました。
なんという慈悲でしょう。大きなる者の生贄になれるのは大変名誉な事です。そんな名誉を与えて貰いながら、他の産まれる前の者が産まれる世界の礎になれるなんて。しかも根気よく繰り返し啓示をされるとは。
そして、産まれる前の全ての者達は大きなる者のお声に感謝し、期待に胸を膨らませ、我こそは皆の為に生贄になると言って大きなる者へ立候補をしたのです。
まずは一人目の生贄が立候補しました。
「私を使って世界を作って下さい」
一人目の生贄の想いに、大きなる物は応えます。
「宜しい。但し、一人分の生贄では一日のみの世界しか作れぬ」
大きなる物はそう言い、一人目の生贄を消滅させ、世界をお作りになりました。
そこは緑も水も生き物も全てが産まれる事が出来、とても穏やかな世界です。
しかし、この世界も一日経てばおしまいです。
そこで、二人目の生贄が立候補しました。
「私を使って世界を続けて下さい」
二人目の生贄の想いに、大きなる物は応えます。
「宜しい。但し、一人分の生贄では一日のみの世界しか作れぬ」
大きなる物はそう言い、穏やかな世界を続けてくださりました。
二日目ともなれば今迄産まれる事が出来なかった者達だけで無く、全くの新しい命も産まれてきます。これから先がとても楽しみになりますね。
しかし、この世界も一日経てばおしまいです。
そこで、三人目の生贄が立候補しました。
「私を使って世界を続けて下さい」
三人目の生贄の想いに、大きなる物は応えます。
「宜しい。但し、一人分の生贄では一日のみの世界しか作れぬ」
大きなる物はそう言い、穏やかな世界を更に続けてくださりました。
三日目になると、もう一日目とは違って様々な物が発展発達します。新しい命も沢山増え、最初に産まれなかった者達よりも沢山の命が産まれるでしょう。
しかし、この世界も一日経てばおしまいです。
そこで、四人目の生贄が立候補しました。
「私を使って世界を続けて下さい」
「宜しい。但し、一人分の生贄では一日のみの世界しか作れぬ」
五人目の生贄が立候補しました。
「私を使って世界を続けて下さい」
「宜しい。但し、一人分の生贄では一日のみの世界しか作れぬ」
六人目の生贄が立候補しました。
「私を使って世界を続けて下さい」
「宜しい。但し、一人分の生贄では一日のみの世界しか作れぬ」
次々に立候補をする者達。
彼等は大きなる者の手に掛かることと、世界の存続の為の二つの幸福を感じながら消滅していきました。
なんと素晴らしい事でしょうね。流石です。
しかし、産まれなかった者達の中には、自ら望んで産まれたくなかった者も居ました。
その者はこうして無理やり世界に放り出された事を恨んでいて、なんとかして世界を終わらせたがっています。
そして、明暗を閃きます。
生贄に立候補して大きなる者に謁見をし、怒らせてしまおうと思ったのです。
上手くいけばこれ以上世界は続きませんし、少なくとも自分は罰せられるでしょう。愚かな発想ですが、この産まれたくなかった者は実行に移しました。
「私を使って世界を続けて下さい」
そう言い、産まれたくなかった者は七人目の生贄として立候補します。
「宜しい、但し…」
大きなる者はいつもの様に応えようとしますが、そこで産まれたくなかった者が口を挟みます。
「お前は大きなる者じゃない!偽物だ!大きなる者は生贄なんか取らない!悪魔め!!」
産まれたくなかった者がそう叫ぶと、世界はシンとした後にざわつき始めました。
大きなる者の力は本物ですが、産まれてしまった彼等は生きる事の素晴らしさを知ってしまい、生贄になる事を嫌がる様になっていたのです。
そんな時に産まれる前の者だった産まれたくなかった者がそう言った事で、今迄大きなる者に疑いを持たなかった彼等が疑いを持ち始めたのです。
この状況に産まれたくなかった者は慌て出しました。
単に無礼な事を言って怒らせたかっただけなのに、何やら大事になりそうです。先程から大きなる者の声がしませんし、段々と自分は間違いを犯したのではないかと不安になってきました。
「よくぞ見抜きました勇気ある者よ。私が本当の大きなる者です」
すると、突如として大きなる者とは別の声が聞こえてきました。
「勇気ある者の指摘で私を騙っていた不届者は消えました。お礼として、貴方を私の代弁者として認定し、世界も七日目を作りましょう」
その様な声が聞こえた後、産まれたくなかった者は光り輝き、他の者とは違う力を身に付けました。
彼はその力を他者の為に使う様になり、英雄として扱われ、今も死ぬ事無く世界を彷徨っています。
世界を創るための生贄になった者も蘇ったのですが、彼等は世界を続けて欲しいと再度生贄なり、世界は最後に出来た七日目を軸にして一日目から七日目を繰り返す様になったのです。
めでたし、めでたし。
「
内容を理解し終わると、彼女がそう話しかけてきました。
心なしか白い肌の方から聞こえる声が大きくなった気がします。
「
彼女のお別れの声が聞こえたと思った瞬間、あなたは目の前が暗くなりました。
そう、お題につきお話は一つ。
それでは、また明日。
若しくは、明後日。
お題を元に作られる性癖小説で会いましょう。
本屋とは一旦お別れ。
「
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