終わらない七月

福岡辰弥

終わらない七月

 七月になると、思い出の場所を彷徨さまよってしまう。

 彼女はもうここには来ないし、町のどこにもいない。

 気付いたら大人になっていた僕と、自らの大人になった彼女を結ぶ線は、どこにもない。なのに僕は、彼女との思い出が残る場所を彷徨さまよっている。と言っても、大した思い出じゃない。一度だけ待ち合わせだけの、今は何もないコンビニの跡地。彼女と食事をした店があった空間。彼女が育った町。そのあちこちに、僕だけの思い出が詰まっている。

 彼女と出会ったおかげで、僕は大人になった今でも彼女を忘れられずに、小さな希望を抱いている。恋人だったわけでも、将来を語ったわけでもない。ただ、何の刺激もない人生の中に、彼女との刹那せつな的な思い出があって、その思い出を今でも鮮明に思い出す。もう一生会うことはない彼女との間に、ほんの一瞬だけ生まれた夜を、大人になった今でもずっと覚えている。七月の夜にあった、僕の人生で最も美しかった日のことを思い出す。そして、その残滓ざんしを求めて彷徨さまよっている。意味のない人生だ。それでも今、こうして僕が生きていられるのは、人生に絶望しながらも生きていられるのは、少なくともあの夜だけは、僕は何らかの意味を持っていたと思えるからだ。あの夜の僕は、彼女に存在をゆるされた気がして、その日をさかいに少しだけ、自分に自信が持てるようになった。

 けれど反面、もし彼女にゆるされていなければ、僕はもっと早くに自分に見切りを付けて、今とは違う、もう少しだけまともな人生を送れていたのかもしれないと考える日もある。きっと僕は、彼女にとらわれ続けて、手の届かない希望にすがっている。

 叶わない初恋なら、取り返しがつかなくなる前に捨てたかった。

 本当は、彼女は残酷ざんこくな希望を僕に与えたのだとわかっている。わかっているのに、僕はまた今年も、七月の夜を彷徨さまよっている。

 君に狂わされた人生を、悪くないものと思い込むために。

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終わらない七月 福岡辰弥 @oieueo

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