試練の書
金谷さとる
アンラッキー7
ちょっとした不幸を固めて固めた幸運と入れ替える。
誰かが耐えられないと思った不幸は意外と別の誰かだと耐えられたりもする。
耐えられない人が弱いとか強いとかじゃなくて強さ弱さの特性が違うのだ。
不幸を受けとった相手には相応の幸運を。
均衡は常に一定を。
さて、不幸も幸運も近くにあればきゅうっと融合してしまうのだが、まさかちょっと目をはなしたうちに重なりすぎである。
ここまでくると申し訳ないがこの重なる不幸を一人に背負ってもらうことになる。
有り得ない不幸と均衡をとれる幸運を。気をつけないと幸運こそが不幸の種になってしまうけれど、それもこれも受け取った誰か次第だ。
題は『七つの試練』
不幸を与えなくてはいけないアテンダントはじっとりと暗い顔。
いつものように安全な世界でなく、七つの試練を乗り越えなければ閉じ込められる呪いの本。
アテンダントが救える機会は一度だけ。
「これ! タイくん! 面白そう! 冒険物だよきっと!」
常連の少女の声が響き、とめる間もなく本が引き抜かれていく。
「七つの試練?」
「そう! ネオンとタイくんが協力しあってこえていくの! オーナーに部屋を借りてさっそく読もう!」
はしゃいで少年の手を引く少女はすでにまわりを見ていない。本のヤバさにドン引きするアテンダントたち、新人アテンダントが特に気付かず少年に懐く。
「よっし! アテンダントは君だ! オーナーぁ!」
「ネオンちゃん、声量落とそう。店内」
二時間後、本の世界から戻った二人はオーナーに延長料金を払って帰っていく。
「傍観者じゃなくて当事者になれるなんて斬新でしたよ」
なんて言いおいて。
燃え尽きた不幸の種。
七つの試練。
むしろ、均衡をとるための幸運の種こそが危険を呼んだ。
幸も不幸も事象のひとつ。
わかってはいるのだ。
何事も要も不要もないと。
「あの子達がかえって来れて良かったですよ。消えていい子達じゃありませんからね」
試練の書 金谷さとる @Tomcat
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