アンラッキー7は容赦ない
桜枕
短編
毎回、俺の隣に座って1000円だけ献上して帰る女の子がいる。
なにがしたいのか分からないが、本人が満足しているならそれで良いと思っている。
その台やめた方がいいよ、なんて野暮なことは言わない。
彼女と話すようになるまでにそう時間はかからなかった。
ギャンブルは貯金ではない。ましてや投資でもない。
明日を賭けた一発勝負なのだ。
(キタッ! キタッ! キタッ! キタッ!)
アドレナリン大放出中の俺の隣にいつものあの子が座って台を覗き込む。
「当たりそうっすか?」
「ビンビンっすね」
今日も今日とてギャルだ。
ギャルメイクというやつかもしれない。
そんなことはどうでも良かった。
当たれば親からの仕送りを溶かした分を取り返せる!!
「当たったら、あたしのこと好きにしていいっすよ」
「いや、大丈夫っす。学費がかかってるんで」
「ギャルは嫌いっすか」
「好きとか嫌いじゃないんすよ。とにかく金なんすよ。大学に行けなくなっちまうんすよ」
「じゃあ、当たらなかったギャルやめるっす」
絶賛、大興奮中の俺に彼女の声は届いていたが、意味は理解できなかった。
好きにすればいいと思う。
ただ、他人に委ねるのはどうかと思う。
でも、やっぱりどうでもいいと思った。
激アツ展開の演出が目を痛めつける。
それでも俺は目を見開いて、親指に全神経を集中させた。
「頼む、母ちゃん。俺に力を貸してくれ!」
あれから数日。
俺は実家の両親に頭を下げに行き、一人暮らししているアパートに向かっていた。
もうあの店に行きたくない。視界に入れたくない。
でも帰宅途中にあるから絶対に通らなくてはならない。
「ちっす」
何この清楚な子。俺みたいな親不孝者にこんな美人の知り合いはいないんだけど。
「あの時、激アツ外したからギャルやめてみました」
「あ〜。お疲れっす」
「お兄さんのおかげで彼氏ができました。ありがとうございました」
あぁ、この世に救いはないんだな。
アンラッキー7は容赦ない 桜枕 @sakuramakura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます