不躾な新聞記者との再会はあまり嬉しいものではない
翌朝早く、ジャックは主人の使いで時間迷宮の館に赴いた。面会を取り付ける簡単な書面を渡すと、館の主はすぐに短い返事を書いて封筒に入れ、ジャックに託した。
その日の午後二時、
「ジャック、僕が今日ここに来ることを誰かに話したのか?」
「いえ、サー」
「そして僕は、君に同行するように頼んだんだったか?」
「いえ、サー」
「……なんでこう、揃いも揃って鼻が効くんだ?」
一人で訪問しようと思っていたジョシュアは、呆れ返って一同を見渡した。
シャーロットは今日は帽子をかぶらず、グレーとピンクのドレスを着て、髪には同じくピンク色の大きなリボンを結んでいる。
ジャックはいつもの黒い服だ。ジョシュアが強制したわけでもないのに、ジャックの服はいつも黒い。持っている服すべて黒い。
そしてヘイゼルのベージュのスーツも昨日と全く同じに見えるが、こちらはスーツを一枚しか持っていないのだろうか。それとも泊まり込みで仕事でもしていたのか。
とまれ、招かれざる同行者たちの言い分はこうだ。
「朝、リリーが教えてくれたのよ、ジャックがお兄さまのメッセージを持ってこの館に来たって。お兄さまだけずるいわ、わたしだってずっとこのお屋敷が気になっていたのよ」
「ブンヤの勘、ってやつですよ、ミスター。犯人がわかれば儲けもの。わからなくてもこの屋敷の話だけで埋め草程度の記事にはなりそうだ」
「昨日あんな状態で帰ってきておきながら、お一人で外出されるおつもりだったのですか。危なっかしくて放っておける訳がないでしょう」
「ひとりじゃない」
ジョシュアはぐるりと見回して反論した。
「結果論です」
と、ジャックがぴしゃり。
「とにかく行きましょうよ」
シャーロットが柵を開けて庭に踏み込んだ。
館はゴシック建築の尖った屋根が古めかしい印象の、石造りの建物だ。高い鉄柵に囲まれた庭はそう広くはないが、当時流行の自然美を強調したスタイルで、高低差のある草木が所狭しと生い茂り、その合間を縫うようにかわいらしい小道が玄関まで伸びている。
ドアを開けたのは、東洋風の顔立ちの少年だった。地毛なのか染めているのか、髪の毛は薄い金色で、細い銀縁の眼鏡を掛けている。見たところ十七、八くらいか。
「ようこそ『
「はじめましてミスター・モーガン。ジョシュアで結構です。すみません、ちょっと連れが増えてしまいまして、妹のシャーロットと、彼は僕のバトラー、あと……」
「タイムズ紙のヘイゼルです」
ジョシュアの、紹介する気も起きない、といった雰囲気を汲み取ってか、ヘイゼルは自己紹介する。
「彼は勝手についてきたのだ。不都合であればお引取り願っても結構です」
ジョシュアは冷たく言い放ったが、ハルは笑って
「構いませんよ。皆様、どうぞこちらへ」
と、奥へと促した。
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