修行パート

前話も沢山の感想いただきありがとうございます!

が、作者がポンコツでネタバレしそうなため感想返しを控えさせていただいています。申し訳ない……(◞‸◟)


今話、時系列としては2章終了後です。

────────────────────




「ふふ〜ん」

「…………」


 ゆらゆらと身体を揺らして座る、上機嫌なヒナタ。

 その対面で──ルイは顔を青くして座っていた。


「む、ムリよ。こんなのゼッタイ、無理……!」

「大丈夫だいじょうぶ、ルイちゃんならできるって。ほらほら♪」


 にこにこと笑いながらソレ・・をルイへと押し出してくる天使悪魔


「ゆっ、許してヒナぁ……!」


 若干、涙目になりながら首を振るルイ。

 彼女の目の前、机の上には、



「こんなに食べられるわけがないわッ」



 山のように積まれたハンバーガーがあった。




 ♢♢♢♢♢




「ルイちゃん、太ろっか」

「え?」


 きっかけはその一言だった。

 ルイが自分より20cmほど下にあるヒナタの顔を見下ろすと、ニコニコした天使がこちらを見上げていた。


 その笑顔にどこか影があるように見えて──ルイには思い当たる節があった。


「ヒナ……アナタひょっとして、前回の人気投票のこと気にしているのかしら……?」

「────」


 ヒナタが笑顔のまま肩を揺らした。


 前回の人気投票。

 それは養成学校スクール卒業時に行われた人気投票のことだ。


 天翼の守護者エクスシアには治安の維持という第一の遵守事項プリム・リーブラがある。

 それを守り抜く上で必要とされる素養が三つあった。


 勇気、才能──そして、人気


 英雄は、平和の象徴として人々の心に安寧をもたらす。

 彼女たちには勇気と才能は当然、それと同じかそれ以上に"華"が要るとされているのだ。


 そして英雄の資格たる象徴ヒーロー性を周知させる一大イベントこそが人気投票だった。


 ルイからすればくだらない遊びだ。

 だが天翼の守護者エクスシアである以上、参加自体は半ば強制。


 養成学校スクールの卒業時にもそれがある。

 天翼の守護者エクスシアのランキングとは別に養成学校スクールのランキングが設けられているのだ。


 卒業時のそれは言わば成績みたいなものとして位置付けられている。

 その結果を、気にしているのではないかと、ルイは問うたのだ。


「ややややだなぁ! そんなわけないじゃん!?」

「ヒナ……」


 露骨にあわて始めるヒナタを、しらっとした目で見るルイ。


 卒業時のランキングは、ルイが圧倒的な一位だった。

 養成学校スクール生ながら〈美しき指揮者〉などという大仰な二つ名を持つのだから、さもありなん。


 肝心のヒナタも、三位に大差をつけての二位だ。


 およそ9割5分の票が二人に集まる異例のランキング。

 三位以下はもはや諦めの境地にいたという。


 この結果自体にヒナタも不満はないだろう。

 それどころか「わたしなんてそんな……」と心の中で謙遜している様がルイの脳裏には有り有りと浮かんでいた。


 しかし問題は、


「──大丈夫よ、ヒナ。別にアナタは太っているわけじゃないわ」

「ルイちゃんっ!?」


 ランキングには応援コメントも一緒に寄せられることが多い。

 その膨大な量を全て読み切ることはできないが、ざっと目を通すくらいはできる。


 ヒナタと一緒に覗いてみたところ、ルイのそれは基本的に「美しい」と「綺麗」で埋められていた。

 中には「細すぎて心配になる」や「折れそうで怖い」などという旨のものも混じっていたが、基本的には賞賛・礼賛の雨霰である。


 が、正直どちらもどうでもいい。


 ルイは応援・声援に向ける興味は皆無だ。

 なんなら「他人の応援なんかしていないで自分のやるべきことをやれば?」とすら思っている。


 良かろうが悪かろうが他者の意見など気にしないのがルイだが、ヒナタはそうも割り切れない。


 ヒナタの応援もほとんどが「かわいい」か「つよい」の二択だったが、チラホラと「もちもちしてる」だとか「健康的」だとかのコメントも散見された。

 明らかに幼い筆跡。子供とは時に残酷な真実を突きつける生き物である。


 ルイ的には褒め言葉だと思うのだが、彼女はそれを気にしているらしい。


「違うのっ! 筋肉っ! 筋肉量が多いだけなのっ!」

「うんうん、そうね」

「ルイちゃんと違って、わたしは近接戦が主体なんだからっ!」

「うんうん、そうよね」


 涙目になって必死に言い募るヒナタの胸部をじっと見るルイ。


(あの山ほどの栄養は全部そこ・・にいくのでしょうね……)


 ルイはそっと目を逸らした。

 それを目敏めざとく、ヒナタは見咎めた。


「あーっ! その感じ、信じてないでしょ!?」

「信じてる信じてる。……別の部位ものを」

「もうっ!!」


 ぷんぷんしてるヒナもかわいいな、と思っていると、話題が元の場所に帰ってきた。


「ルイちゃんももっと太るの! 健康的にもよくないんだからね!」

「……しかたないでしょ。あまり食べられないのだから」

「だ・か・ら、食べれるようになるための修行・・、しにいこ?」

「いやよ」


 ふい、とルイはそっぽを向いた。

 むっ、頬を膨らませたヒナタは、──目に妖しげな色を宿した。



「──ね。デート、しよ?」



「今すぐ行きましょう」


 こうして彼女たちの修行デートが始まった。




 ♢♢♢♢♢




「もう帰るぅ……!」


 そして冒頭、フードコートにて。

 ルイが往生際悪く首を振っているとヒナタは、


「しょうがないなあ」


 と笑って、ハンバーガーの山に手を伸ばす。

 天使がぱくぱくと口を動かすにつれ、あっという間に山は消えていった。

 その様子にルイは顔を青くする。


(あ、あんなに油物を……うぷ。でも食べてるヒナは可愛いわ……)


 オタクとは斯くもたくましい生き物である。

 彼女の前でぺろりとハンバーガーの山を平らげてしまった天使推しは満足げなため息の後、真剣な表情をした。


「今のは冗談だけど」

「あれが冗談……?」

「冗談だけどっ。ルイちゃんは痩せすぎでよくないと思います。病気とか体調不良にもなるんだよ?」

「ええ、まあ、そうだけど……」


 消極的な同意を受けて、ヒナタはどこからともなく眼鏡を取り出した。

 先生モードに入ったらしい。


「体重を増やすためには──とにかく摂取カロリーを増やします!」

「はあ」

「でも、栄養が偏ると腸の吸収力が下がるのでバランスよく食べること」

「じゃあ、なんでさっきハンバーガーを」

「女性でも1日2000キロカロリーくらいなら摂っても全然平気なんだよ。特に運動する人はね」

「ワタシはあんまり動かな」

「最初のうちは1日4~6食に分けて食事をするとか、間食を摂るようにするとか、そういうのが良いかな」

「ねえ、聞いて」


 先生モードのヒナタに口答えは許されない。

 ルイの目からハイライトが消えかけている。


「あと意識することは、毎食タンパク質を欠かさず摂取することと、無酸素運動──筋トレをすること! これは摂取したカロリーを脂肪にしないための運動だから、絶対だよ! だからルイちゃん、」

「なに……?」


 ヒナタはにっこり笑った。


「一緒にがんばろうねぇ?」

「ひぃ……」


 ルイの長い修行が始まった。




────────────────────

ルイのBMI危険域問題(作者Twitter参照)が起こったので修行パート()をしているわけではありません。

本当ですよ?本当ですからね?元から考えておりましたとも( ◜ᴗ◝)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る