第16話 わかりました!(わかってない)

@n_o_f_a_s_e様、嬉しいレビューをありがとうございます。

オタクがオタクしているだけとも言いますが(笑)、これからもこんな感じで進んでいきますので、お付き合いいただけたら嬉しいです。

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 少しだけ時計の針を戻そう。

 その時、ヒナタは上機嫌だった。

 とてもとても上機嫌だった。


 代償アンブラで減っていたお腹をビュッフェで満たせて幸せ。

 その上、お兄さんが「自分にはヒナタちゃんが必要だ(ヒナタ目線)」とまで言ってくれたのである。


「ふふふっ♪」


 昼食を終えて、各グループは思い思いに過ごしていた。

 天翼の守護者エクスシア側の目が届くよう、なるべく班員はみな同じ場所にいる。

 ヒナタたち4人で言えば、先ほどの懺悔室があった広間だ。


 ツクモはぴょこぴょこと広間の装飾を見て周り、その度に「おお〜」とか「ほえ〜」とか感嘆を溢している。

 ルイは柱に寄りかかって、そんなツクモを見守っていた。

 そしてイブキは──、


「……っ、っ! ……っ!」


 なにやらヒナタに向かって身振り手振りで合図を送っていた。

 傍目には面白いように映っているだろうが、ヒナタにしてみればとても可愛い。

 そんな食欲をそそるおにーさんに、ヒナタは満面の笑みを返した。


『わかりました!』


 口だけ動かして返事をすると、イブキは密やかに懺悔室へと近づいていった。

 そちらを見ないようにして、ヒナタは柱のそばに立つルイへと歩み寄る。


「ルイちゃん、ちょっといいかな?」

「なにかしら」


 ここからはイブキの計画通り・・・・に事を進める。

 彼は言っていた。


『このまえ話した』『雨剣さん』についてのことだと。


 つまり──本人の口からより詳しいことを聞きたいのだろう。


 作戦はこうだ。

 まず、イブキが懺悔室の聞く側に入る。

 そのあとでルイを話す側に誘導し、ヒナタが聞く側に入る。


 懺悔室という場所を利用して、ルイ本人の口から真実を聞き出す。

 聞く側にいるのはヒナタだけ(という体)なので、相棒の口も当然軽くなるだろう。


 空間を利用して情報を引き出す、中々冴えた作戦だ。

 さすが、公園で泥だらけになることでヒナタを助けるなんてことを思いついて即実行したイブキなだけはある。


 あの時のことを思い出したというのも、ヒナタが上機嫌である理由の一つだった。

 それに……、



(あんな狭い空間でおにーさんと二人きりだなんて……ふふふっ)



 ヒナタは取らぬ狸の皮算用で頭がいっぱいだった。


「ルイちゃん、ここ最近悩んでる、よね?」

「───!」


 いきなり核心をつくヒナタの台詞に、ルイは動揺を見せる。

 ヒナタはそれを見逃さず、絡みつく蛇のように言った。


わたしに・・・・、聞かせて?」

「ヒ、ヒナ……?」


 パートナーが最近になって見せはじめた表情に、ルイは未だに慣れない。

 畳み掛けるようにヒナタが言った。


「顔を合わせて言いにくかったら、せっかくだしあそこを使ってみよっか?」


 あそこ、とヒナタが指差したのは、もちろん懺悔室。

 ルイは戸惑うような、あるいは迷うような素振そぶりを見せる。


「でも、ツクモが……」

「大丈夫だよ、他にも天翼の守護者エクスシアはいるし」


 ヒナタはにっこりと笑う。

 見れば、同じ広間には、以前にも護送車でチームを組んだ先輩たちのグループもいた。


「そう、ね……」


 見知った顔に対する安心感。

 何よりパートナーの押しには勝てなかったようで、ルイはヒナタに背を押されるようにして懺悔室へ向かった。




 ♦︎♢♦︎♢♦︎




 俺は緊張とともに息を潜めていた。

 別に潜める理由はないのだが、懺悔室の厳かな雰囲気に呑まれていたのだ。

 と、その時である。


「ほらほら、ルイちゃん入って!」

「ヒナ、そんなに押さなくても入るわよ」

「!」


 ゆりんゆりんした声が外から響いた。

 いざ開戦と腹に据える。

 決意と同じタイミングで、扉が開く音がした。


 ───俺側の、ドアが。


 立っていたのは、ルイである。


「っ!?」


 ここで一つ目の不運。

 ルイはヒナタちゃんに背中を押されていたせいで、肩越しに後ろに振り返っていたこと。

 ちゃんと確認しないまま、話す側へと押し込まれたルイは物理法則に則って───俺にぶつかった。


「きゃ、ごめんなさい、誰かいるとおもっ───」


 俺にしなだれかかるようにして倒れ込んだルイが顔を上げ、ばちりと目があった。


「───っ、……は?」


 呆気に取られた蒼玉サファイアの瞳が俺を映す。

 そのまなじりが吊り上がり、彼女が何事か言葉を発しようとした時。


『あれ?』


 隣室から、ヒナタちゃんの疑問に満ちた声が聞こえた。

 まるで用意されているはずのご馳走がそこになかったかのような、肩透かし感に溢れた声音だった。


 それを聞いたルイは慌てて部屋を飛び出そうとする。

 が、そこで二つ目の不運。


「───ッ」

「ひぅ……!?」


 俺の腕が、ルイの矮躯を抱き寄せた・・・・・

 そう、代償アンブラ──『接触』が始まったのである。


 ──いや、なんでえええええええええええええええ!?


 そこで脳裏に蘇る光景。


「────」


 ルイがクロワッサンをちぎり、ツクモが皿をひっくり返しそうになっていた食堂での一幕。


 ──あの時かあああああああああああああああああ!!


 不幸中の幸いか。

 あの程度ならば、5秒も支払いに要さないはずだ。

 思考回路がまともに機能しているのも代償アンブラが軽い証拠である。

 けれど「少し我慢して」などと言える状況じゃない。


「ちょ──な……っ! 離れ……!」


 嫌悪より先に焦りが来たのか、ルイはバタバタと暴れる。

 が、流石に女子高校生の細腕よりは男子大学生の方が勝っていた。

 抜け出せないうちに、


『ルイちゃん? どうかした?』

「───っ、いいえ、なにもないわっ」


 隣から声を掛けられ、動きを止める。

 どうやらヒナタちゃんにこの状況を見られるのを避ける方を優先したらしい。


 器用にも片足をドアに引っ掛け、素早く閉めた。

 と、ほぼ同時に『接触』の支払いも終わった。

 遅えよ!と内心で悪態を吐きながら、声を出さずに身を引く。


 俺が奥の壁に、ルイが扉に背をつけた。

 狭い懺悔室で可能な限り互いに距離を開ける。

 そこでルイは俺よりもヒナタちゃんへの対応を優先した。


「ヒナこそ何か驚いていたみたいだけれど、どうかしたの?」

「え!? あ、いや、べ、別に何もないよ? ……こ、このまま始めよっか?」

「え、ええ、そうねっ」


 お互いにやましいものを隠すかのようなギクシャクしたやり取りを交わす相棒二人。

 で、


「────」

「…………」


 無事、俺とルイだけの密室が完成した。

 計画は絶対的な破綻に終わり、俺は圧倒的な敗北を喫した。


 ていうか、そもそも……!

 なんでヒナタちゃんがそっちにいて、ルイがこっちにいるの……?


 きっと、俺だけじゃない。

 ヒナタちゃんも、ルイも思っていたはずだ。


 ──どうしてこうなった!?!?!?




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タイトル案②『ポンコツピタゴラスイッチ』

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